Skinerrian's blog

論理学・哲学・科学史・社会学などに興味があるので、その方面のことを書きます。更新は不定期。

イオタとラムダ

確定記述を使った主語述語構文 "The F is G." を標準的な述語論理の言語に翻訳すると ∃x(Fx & ∀y(Fy → x=y) & Gx) となる(ラッセルの記述理論)。ただし、述語論理の言語にイオタ演算子ιを付け加えて*1、"the F"を個体を指示するタームのように扱う方法も…

チャーチのラムダ計算

wikipediaの「ラムダ計算」によると 元々チャーチは、数学の基礎となり得るような完全な形式体系を構築しようとしていた。彼の体系がラッセルのパラドックスの類型に影響を受けやすい(例えば論理記号として含意 → を含むなら、λx.(x→α) にYコンビネータを適…

子供の教育

ヤマザキマリ『テルマエ・ロマエ』2巻から。 子供を勇敢さを身につけた戦士に育て上げるには、玩具を用いたりして楽しみながら行うのがよい。こうした教育観は、実は、プラトンの『法律』に原型が見られる…。そんな話を知人から聞いたことがある。最近、『法…

コルモゴロフ

ルイセンコ説は、権力が科学に介入するとどんな悲惨なことが起きるのかの例証として、科学史や科学哲学でよく用いられる。しかし、一体どういう理由で獲得形質の遺伝がソ連において正統な学説とみなされたのだろうか。 先日紹介したマット・リドレー『徳の起…

高齢者による交通事故

ここ数年、高齢者が運転する自動車による交通事故がニュースでよく取り上げられるようになった。これに関連して、まとめサイトなどで「老害」という言葉がよくつかわれるようにもなっている。あまりに興味はなかったのだが、頻繁に目にするので、少し考えて…

小学校の集合論

集合が小学校の課程の中に導入されたとき、多くの親達はたいへんな反発を示したらしい。習ったことのない「集合」が入ってくると、親は子供の算数の面倒をみることができなくなるからである。しかし、このことは多くの場合、無駄な心配に終わった。というの…

リドレー『徳の起源』

マット・リドレーの『徳の起源』を読んだ。以前、途中まで読んだのだが、難しくて止めてしまった覚えがある。今回はいちおう最後まで読みきったが、正直理解できなかったところも多い。ただ、中盤で誤訳をいくつか見つけたので、これが以前読むのを諦めた原…

黄金比

18禁の映画『ニンフォマニアック』(2013年)で、フィボナッチ数とか黄金比とかピタゴラスの定理の話をする場面がある。スクリプトは以下。 The [Fibonacci] sequence has an interesting connection to Pythagoras' theorem of the Golden Section. It was …

ボロノイ図

最近、ボロノイ図Voronoi diagramというものを耳にした。直観的な説明としては、平面上に複数個の点が与えられたときに、それらの点への近さによって平面を領域分けした図のこと。領域と領域の境界線は、与えられた点と点の二等分線(の一部)になる。詳しく…

リリカルLISP

最近プログラミングの勉強を始めてみた。どの言語を学ぶか迷ったけど、初心者らしく(?)Pythonを選択。Pandasの扱いに四苦八苦してますが、私は元気です。 プログラミングといえば、随分まえに「リリカルLISP」というフリーゲームをやったことがある。LISP…

科学を語るとはどういうことか

最近読んだ本。 科学を語るとはどういうことか ---科学者、哲学者にモノ申す (河出ブックス) 作者: 須藤靖,伊勢田哲治 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売日: 2013/06/11 メディア: 単行本(ソフトカバー) この商品を含むブログ (17件) を見る なかなかド…

inverted burial

『One Piece』46巻にある一コマについて。 以前このブログで、プラトンやらアリストテレスが人間を逆さになった植物とみなしていた、という話題を紹介したことがある。人間が口から栄養摂取するように、植物は根から栄養摂取するので、口と根が対応してると…

嘘つき(2)

ジェスパー・ホフマイヤー『生命記号論』から。 次の文は実際には何を意味しているのだろうか。「この文には三つもまつがいがある。」この文は正しいと言えるだろうか。実際には、間違いはただ一つ「まつがい」だけである。この文を正しく読めるものにするに…

対応理論

戸田山『論理学をつくる』は終盤で様相論理について簡潔な解説をしている。そこで「対応理論」という用語がでてくる(p.315)。様相論理の式とそれが妥当になるフレームの到達可能性関係の対応をあつかう理論、といったところだろうか。そこで著者が紹介して…

ゲティア事例

1963年の論文で、エドマンド・ゲティアは知識の古典的定義に対する反例を提出したとされる。知識の古典的定義とは「知識=正当化をもつ真なる信念(justified true belief)」というもの。通称、JTB分析である。 以後、ゲティアの反例を回避するにはJTB分析…

カリーのパラドクス

自分自身を含まない集合 {x | ¬x∈x} などという集合の存在を認めてしまうと矛盾が生じる。カリーのパラドクスは、このラッセルのパラドクスとよく似ている*1。論理学では、否定命題¬Pを「P→⊥」という形で定義することがある。この定義を用いると、ラッセル…

論、主義、説

哲学において特定の立場や見解を表現するとき、大きく分けて、「〇〇論」という場合、「〇〇主義」という場合、「〇〇説」という場合の三種類があるように思う。具体例としてはこんな感じだろうか。 〇〇論:唯名論、観念論、唯物論、二元論、イデア論、独断…

意味論的パラドクス

嘘つきのパラドクスは「意味論的パラドクス」などと呼ばれる。真理は意味論的な述語だからそう呼ばれるのだけど、意味論的な述語は真理だけではないので、例えば、次のような意味論的パラドクスもある。 1 = 1 したがって、この論証は妥当ではない。 論証が…

現代存在論講義I

移動中の読書で、倉田剛『現代存在論講義I』(2017年)をざっと読んだ。読みやすくていい入門書。最後に読書案内も載っているのだが、分析形而上学は日本語でよめる入門書が多くていいですな。この読書案内には載ってなかったけど、アール・コニーとテッド・…

結婚の掟

先日、レヴィ=ストロースの『遠近の回想』をとりあげた。この本は伝記なので、学術的な話はそれほど多くないのだが、10章「結婚の掟」は『親族の基本構造』に対する批判に答えようとしているところがあって興味深い。多少要約しながら紹介してみる。四角カ…

変換の概念

レヴィ=ストロースの伝記『遠近の回想』を流し読みした。伝記といっても、自分のキャリアについてレヴィ=ストロース本人がインタビューに答えるという体裁をとっている。会話なので読みやすい。 アメリカに亡命したとき、名前をClaude L. Straussにしよう…

未開人の思考

カリエラ族の婚姻規則がクラインの四元群によって表現できるというレヴィ=ストロースの発見を紹介した後、橋爪大三郎は次のように述べている*1。 これは、なかなかのことではないだろうか。 ヨーロッパ世界が、えっちらおっちら数学をやって、「クラインの…

『言語を生み出す本能』を読み返す

スティーブン・ピンカーの名著『言語を生み出す本能』をひさかたぶりに読み返してみた。以前読んだときよりも知識がついたおかげか、前はほとんど流し読みしていたような箇所にも目がいくようになり、あらためて情報量の多い本だなと思った。 しかし、本書の…

科学的説明のISモデル

ヘンペルによる科学的説明の理論は「DNモデル」が有名だが、彼は統計的説明にも一定の余地を残していたといわれる。ヘンペルによる統計的説明の理論は「ISモデル」と呼ばれる。ラフにいうと、ISモデルは適切な統計的説明が Pr(G|F) = r Fa ==== [r] Ga とい…

排中律の反例

直観主義論理では排中律(P v not-P)が成り立たないと言われる。しかし、これは排中律の否定が成り立つということではない。排中律の否定を仮定すると直観主義論理の範囲でも矛盾が導かれるので、排中律の二重否定が成立する*1。 そういうわけで、排中律が…

確証バイアス

ウェイソンの選択課題とか確証バイアスについて、少しばかり調べものをした。ウェイソンの選択課題については CiNii 論文 - ウェイソンの4枚カード課題に関する研究のレビュー : その1・1966年〜1979年まで CiNii 論文 - ウェイソンの4枚カード課題に関する…

エディプスコンプレックスの教義

岩波の『フロイト全集』に付いている月報20から。白井聡「いまフロイトを読むこと」 フロイトを今日あらためて読み直し、評価する際に、エディプスコンプレックスの教義をどのように取り扱うべきかという問題は、やはり避けて通ることのできない・・・この教…

バーナム効果

ドラマ 「ビッグバンセオリー」から。星占いの好きなペニーに対して、シェルドンが冷や水をぶっかけるシーン。 Sheldon: For the record, that psychotic rant was a concise summation of the research of Bertram Forer, who in 1948 proved conclusively …

産業革命の起源

山形浩生のブログ「経済のトリセツ」で、彼のamazonレビューがまとめて掲載されていたので、軽く読みふけってしまった。その中で、グレゴリー・クラーク『10万年の世界経済史』のレビューに追記がなされているのに気付いた*1。以前の彼のレビューはかなり本…

反事実条件法と歴史

最近、アメリカのドラマ『ビッグバンセオリー』を見ている。知らない人のために、wikipediaから「あらすじ」を引用しておく。 2人合わせたIQが360という二十代の仲良しオタクコンビ、レナードとシェルドンはカリフォルニア工科大学の物理学者。カリフォルニ…