Skinerrian's blog

論理学・哲学・科学史・社会学などに興味があるので、その方面のことを書きます。更新は不定期。

オッカムの剃刀

マクファデン『世界はシンプルなほど正しい』という本を読んでいる.オッカムの剃刀がいかにして近代科学の形成と発展に貢献したか,その歴史を追う本.分からない部分も多いがそれでも十分面白い.

類書としては,グリーンブラット『1417年,その一冊がすべてを変えた』が思い浮かんだ.こちらは古代ローマの詩人ルクレティウスの本が1417年に再発見され,そこで提示されている世界観が近世の哲学や科学に大きな影響を与えたという趣旨の本だったが,今回のはそのオッカム版という印象.当ブログでも言及したことのあるオレームとかザクセンのアルベルトゥスなんかもオッカムの影響下にあったんだ……

ちなみに,どちらの本も著者は科学史を本業としているわけではなく,グリーンブラットはシェークスピア研究者.マクファデンは生物学者生物学者が単純さこそ至高と言っているのは,考えてみればちょっと面白い.

読売新聞に書評が出ているのを見つけた.

森本さんは反知性主義の本とかで勉強させてもらったが,この書評は正直いただけない.「その後の科学史では、コペルニクスが周転円を排除して地動説を唱え、ガリレオが天界と地上を支配する同じ法則に気づき」とあるが,マクファデンはそうは言っていないと思う.彼は次のように述べている.

では,もっと単純なモデルを構築するという目標は達成できたのか?軌道円の数を単純に数える限り,その答えはノーである.p.165

ニュートンによってついに,地上での運動と天界での運動がたった一つの法則群のもとに統一されたのだ.p.253