ヘンペルによる科学的説明の理論は「DNモデル」が有名だが、彼は統計的説明にも一定の余地を残していたといわれる。ヘンペルによる統計的説明の理論は「ISモデル」と呼ばれる。ラフにいうと、ISモデルは適切な統計的説明が
- Pr(G|F) = r
- Fa
- ==== [r]
- Ga
といった形式をもつとする(ただし、rは1に近い値)*1。一つ目の前提は統計的法則。二つ目の前提と結論は個別の事実。統計的法則のもとに説明すべき事実を(疑似的に?)包摂するという感じだろうか。
DNモデルと同様に、ISモデルにも色々な反例が寄せられた。しかし、その話は別の機会に譲るとして、ここではISモデル、というか統計的三段論法の定式化の仕方について、最近気づいたポイントを紹介してみる。
内井惣七『科学哲学入門』p.104で、ISモデルの具体例として、次のような説明が挙げられている。
- 日本車が一年間に故障する確率は10^-6である。
- ジェリーの車は日本車である。
- ∴ 高い確率で、ジェリーの車はこの一年故障しなかった
この例示の問題点は、結論に「高い確率で」という様相的なオペレータが出現しているところにある。ウェスリー・サモンの『論理学』によれば、この理解には問題がある。「高い確率で」という限定は推論の全体にかかるべきであって、結論にかかるべきではない(23節)。このポイントは演繹的推論の場合と比べるとはっきりする、とサモンは言う。例えば
- 樽の中のコーヒー豆はすべてグレードAである。
- 豆xはこの樽から取り出した
- ∴ xは必然的にグレードAである
という三段論法を例にとると、ここでは「必然的に」という様相オペレータが結論にかかっている。しかし、これは誤謬推理だろう。「必然的に」は推論の全体にかかっていると理解すべき。「必ず、前提1と前提2ならば結論」という風に理解すべき、ということ。同じことが、統計的三段論法にも言えるだろう、と。
*1:演繹的推論でないので、推論線を二重線を使っている。面倒なので、等号を適当に並べて代用しているけど…。