Skinerrian's blog

論理学・哲学・科学史・社会学などに興味があるので、その方面のことを書きます。更新は不定期。

確定記述とは何か

東浩紀は「確定記述」を理解しているのか問題がXで話題になってるらしい.北大の院生が東浩紀にいろいろと突っかかっているようだ.

「確定記述」が何なのかは意外と厄介な問題ではある.Wikipediaの"Definite description" には次のようにある.

In formal semantics and philosophy of language, a definite description is a denoting phrase in the form of "the X" where X is a noun-phrase or a singular common noun. The definite description is proper if X applies to a unique individual or object.

これを見る限り,基本的には "the X" という形の言語表現を「確定記述」と言い,実際に対象を一つに特定しているかどうかは確定記述かどうかとは独立に見える.一意に特定できている確定記述は適切properで,一つも当てはまらなかったり,あるいは,複数の対象に当てはまる場合は不適切ということだろう."the student of Plato" ならプラトンの弟子は複数いたので不適切な確定記述になる.

それと,日本語にはそもそも冠詞がないので,確定記述が日本語に存在すると簡単には前提できない,という点も押さえておくべきだと思う.だからといって,固有名は確定記述の省略とみなせるようなものではないんだというクリプキの議論が日本語では理解できないというわけではないが.

それにしても,固有名と確定記述の関係に関するクリプキの議論はどうしてこんなにも有名になったのか,以前から疑問に思っている.たしかに,固有名と確定記述では様相的な文脈での振舞いが違うとか,ゲーデル=シュミット事例といった議論は予備知識がなくてもそれなりに理解可能だけど,逆に,予備知識がない人はそもそもなんでこんな区別を分析哲学者は気にしてるの?という点が理解できないのでは,と思う.