Skinerrian's blog

論理学・哲学・科学史・社会学などに興味があるので、その方面のことを書きます。更新は不定期。

科学史

オッカムの剃刀

マクファデン『世界はシンプルなほど正しい』という本を読んでいる.オッカムの剃刀がいかにして近代科学の形成と発展に貢献したか,その歴史を追う本.分からない部分も多いがそれでも十分面白い. 類書としては,グリーンブラット『1417年,その一冊がすべ…

ムペンバ効果

同じ体積の、高温の水と低温の水を冷却すると、高温の水のほうが早く凍ることがある、という話がある。これは、発見者となったタンザニアの中学生にちなんで「ムペンバ効果」と呼ばれる*1。 ムペンバ効果 - Wikipedia 信じがたい話だが、再現するのは難しい…

デカルトの気象学

バターフィールド『近代科学の誕生』を眺めていたら、デカルトに関するこんな記述を見つけた(上巻p.182f)。 『気象学』の中で、彼は、よく人の口にのぼる、雲が血の雨を降らすこととか、雷が石に変わることとかについて、説明を試みている。実際、彼は新事…

民主主義科学者協会

近代科学は、つとにカッシラーが見抜いたようにプラトン的「理性論」の正嫡子なのであって、それをしもベーコンだの実験だのに帰そうとするミンカが、いまだに文部省官許の教科書にたむろしているのは悲劇とさえ言うのもおろかしい。(大庭健『はじめての分…

ガリレオの話

Amazonを見ていたら、君塚『ヨーロッパ近代史』というちくま新書のKindle版が妙に安く、またレビュー評価も高かったので、なんとなく買ってみた。タイトルに似合わず、章ごとに時代を代表するいろいろな人物を取り上げる人物伝になっているのが特徴的。ダヴ…

ケルヴィン、グラスゴー大学

科学史の小ネタ。 スコットランドのグラスゴー大学教授だったケルヴィン卿は*1、1901年に日本政府から勲一等瑞宝章を贈られた。その経緯は次のようである。 明治政府は西洋の科学技術を導入するため、1870年に工部省を設置して、そこを窓口として多くの外国…

世界哲学史4

しばらく閉まっていた地元の図書館が再開した。ここのところ本を読んでいなかったので、気晴らしにこんな本を読んでみた。全部を読むつもりはなく、気になった章だけつまみ食い。6章「中世西洋の認識論」と7章「西洋中世哲学の総括としての唯名論」に目を通…

病は気から

アヘンを服用するとなぜ眠くなるのかという疑問に、それはアヘンに催眠力が備わっているからだ、と言っても何も説明したことになっていない、という話がある。出典はモリエールの『病は気から』という戯曲らしいが、この話の社会的な背景は次のようなものら…

ルイセンコ

科学史や科学哲学で有名なルイセンコ事件について紹介してみる。 ソ連の生物学者トロフィム・ルイセンコはウクライナに生まれた。1928年の論文で、ルイセンコは秋まき性の植物を低温処理すると早めに出芽する「春化」を報告し、これを低温処理によって秋まき…

コペルニクスは司祭か

ギンガリッチとマクラクランの『コペルニクス』は優れた入門書だが、翻訳で一つ気になる点がある。どうしようもなく些末な問題ではあるが。 コペルニクスはフロムボルクの司教座聖堂参事会員(カノン)だった。この翻訳ではカノンを「律修司祭」と訳している…

王水

王水(aqua regia)は金をも溶かす強酸として知られる。では、王水はどのようにして発見されたのだろうか。wikipediaの「王水」によれば 西暦800年前後、イスラム科学者のアブ・ムサ・ジャービル・イブン=ハイヤーンにより、まず食塩と硫酸から塩酸ができる…

バーンスタイン『豊かさの誕生』

ウィリアム・バーンスタイン『豊かさの誕生』を読んでいる*1。 本書で目指しているのは、19世紀の初頭に合流し、その後の近代世界に飛躍的な経済成長をもたらした文化と歴史の諸潮流を明らかにすることだ。p.6 amazonのレビューなどを見ると、類書としてダ…

コルモゴロフ

ルイセンコ説は、権力が科学に介入するとどんな悲惨なことが起きるのかの例証として、科学史や科学哲学でよく用いられる。しかし、一体どういう理由で獲得形質の遺伝がソ連において正統な学説とみなされたのだろうか。 先日紹介したマット・リドレー『徳の起…

ボロノイ図

最近、ボロノイ図Voronoi diagramというものを耳にした。直観的な説明としては、平面上に複数個の点が与えられたときに、それらの点への近さによって平面を領域分けした図のこと。領域と領域の境界線は、与えられた点と点の二等分線(の一部)になる。詳しく…

変換の概念

レヴィ=ストロースの伝記『遠近の回想』を流し読みした。伝記といっても、自分のキャリアについてレヴィ=ストロース本人がインタビューに答えるという体裁をとっている。会話なので読みやすい。 アメリカに亡命したとき、名前をClaude L. Straussにしよう…

月距法

最近、歴史が面白いと思えるようになっていて、色々と啓蒙書を読んでいる。次の本はユニークで面白いと思った。 世界の歴史〈12〉ルネサンス (河出文庫) 作者: 会田雄次,中村賢二郎 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売日: 1989/12 メディア: 文庫 購入: 1人…

等加速度運動について

ガリレオの力学について書かれた次の記事にちょっとツッコミを入れてみた。 ガリレオの力学はどこまで独創的だったのか | 永井俊哉ドットコム この記事の著者とは前に多値論理に関してやり取りをしたことがあるのだが*1、そのときも今回も悲しくなるくらい話…

ワインバーグ「科学の発見」

ワインバーグの『科学の発見』を読んでいる。 アリストテレスは軽率… 「科学の発見」著者に聞く:朝日新聞デジタル 科学史家の間ではあまり評判は芳しくないようだけど、私は科学史への入り口としては悪くないと思った。哲学史でいえば、ラッセルの『西洋哲…

空海の謎

ちょっと前に高野山を特集した番組があって、それを見ていたら、 高野山と空海が留学していた長安の青龍寺は緯度が同じである(北緯34度)。 つまり、高野山は長安の真東にある。 こんなことができたのは空海が高度な天文的知識を持っていたから。 というよ…

落体の速さ

中公の『哲学の歴史11』所収の文章で、金森修は次のように書いている。 若い頃のガリレオは、落体の速さは重さに比例し、同一の物体は一定の速さをとって落ちると考えていた。だが、観察から加速運動が認められるのは否定しがたいために、彼は、加速が起こる…

ハレー彗星

彗星は古くから不吉な印として恐れられてきた*1。そうした迷信が払しょくされたのはそれほど昔のことではないらしい。例えば、ハレー彗星が1910年に地球に接近したときには次のような騒動があった。このときの接近はちょっと特殊で、彗星の長い尾の中を地球…

ニュートンの『光学』(岩波文庫)をパラ見してたら、p.366の訳注52で虹の歴史の解説を見つけた。それによると 虹はアリストテレスの『気象論』でもかなり詳しく論じられたが、屈折を最初に考慮に入れたのはグロステストであり、太陽の光が各雨滴に屈折によ…

非人道的な科学研究

一六世紀文化革命 2 作者: 山本義隆 出版社/メーカー: みすず書房 発売日: 2007/04/17 メディア: 単行本 購入: 1人 クリック: 3回 この商品を含むブログ (33件) を見る この本をななめ読みしている。物理の難しい話はほとんど出て来ないので、純粋に歴史の本…

池田信夫と科学史

池田信夫は科学史に関しては哲学よりもまともな発言をしているように思う。もっとも、他人の文章に対して日頃から事実誤認とか用語の誤用とかを指摘してることを考慮すると、それほど褒められたクオリティではないと思うけど。例えば、ピーター・ディアの本…

コペルニクスの地動説(2)

昨日の記事で書いたけど、コペルニクスは「天体の運動は一様円運動であるべきだ」という古代以来のドグマにとりつかれていたというのは今ではよく知られている。しかし、そういうロマンのない話ばかり聞かされると、地動説が天下をとるうえで、コペルニクス…

コペルニクスの地動説

コペルニクスはどうして太陽中心の体系を考えたのか、問題。かつては、中世の天文学では惑星軌道の予測をわずかにでも修正するために、周転円に周転円を重ねていった、という神話があった。この神話の上にのっかって、コペルニクスは宇宙の単純性を信奉して…

リンカーン

最近、スピルバーグの「リンカーン」を観た。この映画はリンカーンが死ぬ数か月前の政治的駆け引きだけに焦点をあてた異形の作品で、アメリカ出身の知人からも、リンカーンについて知るという目的のためにこの映画を見るのはあまりお勧めできないと言われた。…