Skinerrian's blog

論理学・哲学・科学史・社会学などに興味があるので、その方面のことを書きます。更新は不定期。

パスタでできた牛

DALL-E(ダリ)という画像生成プログラムが今年の一月にOpenAIから発表されて 話題になった。「アボカドの形をしたアームチェア」のようなテキストを入力として受け取って、それらしい画像を返すプログラムである。分かりやすい解説が DALL·E を5分以内で説…

言語学レクチャーシリーズ

この1年はYouTubeで講演とか講義を視聴する機会がかなり増えた。最近見つけた国立国語研究所の言語学レクチャーシリーズもなかなかいい。 国立国語研究所 言語学レクチャーシリーズ(試験版) - YouTube 個人的におすすめなのは、第1回の「音韻構造と文法」…

はじめてのスピノザ

スピノザの属性概念は、デカルトの「心身二元論」(精神と身体(物体)をそれぞれ独立したものとする考え方)への批判として捉えることができます。デカルトは精神と身体を分け、精神が身体を操作していると考えました。巨大ロボットの頭に小さな人間が乗っ…

高校物理

高校の科目でいちばん難しいのは物理だと思う。個人的な意見だし、自分は大学受験で物理を使わなかったので、それもあるとは思うけど、それを割引いても物理は難しい。 物理に苦手意識のある人には、最近見つけた以下のYouTubeのチャンネルがお薦めだ。 PHYS…

ムペンバ効果

同じ体積の、高温の水と低温の水を冷却すると、高温の水のほうが早く凍ることがある、という話がある。これは、発見者となったタンザニアの中学生にちなんで「ムペンバ効果」と呼ばれる*1。 ムペンバ効果 - Wikipedia 信じがたい話だが、再現するのは難しい…

デカルトの気象学

バターフィールド『近代科学の誕生』を眺めていたら、デカルトに関するこんな記述を見つけた(上巻p.182f)。 『気象学』の中で、彼は、よく人の口にのぼる、雲が血の雨を降らすこととか、雷が石に変わることとかについて、説明を試みている。実際、彼は新事…

笑う哲学者

ブラックバーンが編集している『図鑑 世界の哲学者』という本を図書館で借りてみたのだが、美しい図版がたくさん収録されていて大変面白い。文章を読まずに眺めてるだけで楽しめる。 デモクリトスの肖像画とか、はじめて見た気がする。 「陽気なデモクリトス…

米英東亜侵略史

今日は真珠湾攻撃の日ということだが、しばらく前に大川周明の『米英東亜侵略史』を読んだ。ラジオの講演原稿だというけど、よく書けている。いろいろ問題はあるにせよ、当時の右翼がどういう筋道であの戦争を正当化しようとしたのかが分かる、興味深い本だ…

ファクシミリ

たしかウィトゲンシュタインの論文集だったと思うが、いろんな雑誌に掲載された論文を組版とかをまったく変えずに集めただけの論文集をむかし研究室で見かけた。雑誌に掲載されたときのページ数とかもそのままコピーされているので、ある意味便利だなと思っ…

エンダートンの教科書

最近、定評あるHerbert Endertonの教科書(A Mathematical Introduction to Logic)の日本語訳が出た。私もこの本で論理学を勉強した人間の一人なので、この素晴らしい本が多くの人に読まれるのは喜ばしい。 論理学への数学的手引き 作者:Herbert B. Enderto…

ヘンペルのカラス(2)

哲学とは万物を熟考しつづける学問だが、どんな仮説に対してもぼんやりし続ける、ということにかけて常人の想像を絶するような例が数多く存在している。たとえばそのうち1つが「ヘンペルのカラス」という考え方だ。 これはドイツのカール・ヘンペルが1940年…

岸辺のアルバム

昔のTBSドラマ「岸辺のアルバム」をYouTubeで見つけたので見てしまった。多摩川沿いの一軒家で一見幸せそうに暮らす普通の家庭だが、母親は不倫、姉は堕胎、父親は会社の仕事で人身売買、という惨状に高校生の息子が悩む、という話らしい、ということは前に…

民主主義科学者協会

唐突だが、大庭健『はじめての分析哲学』に、次のような注がある。 近代科学は、つとにカッシラーが見抜いたようにプラトン的「理性論」の正嫡子なのであって、それをしもベーコンだの実験だのに帰そうとするミンカが、いまだに文部省官許の教科書にたむろし…

サピア=ウォーフ説

サピア=ウォーフ説、つまり、いわゆる言語決定論は、ヘロドトスがギリシャ人とエジプト人の思考様式の違いを言語の違いに求めたのが最初だという話があるらしい*1。まったく聞いたことがなかったので、調べてみた。 ネットで適当に検索しまくったところ、次…

マット・リドレー『進化は万能である』

マット・リドレーの『進化は万能である』を読んだ。彼の本はまえに『徳の起源』を読んだことがあるが、翻訳のせいなのか読みづらくてよい印象がなかった。それと比べると、今回読んだ本はずっと読みやすい。ただ、多種多様な話題をあつかってるため、一章ご…

ガリレオの話

Amazonを見ていたら、君塚『ヨーロッパ近代史』というちくま新書のKindle版が妙に安く、またレビュー評価も高かったので、なんとなく買ってみた。タイトルに似合わず、章ごとに時代を代表するいろいろな人物を取り上げる人物伝になっているのが特徴的。ダヴ…

ケルヴィン、グラスゴー大学

科学史の小ネタ。 スコットランドのグラスゴー大学教授だったケルヴィン卿は*1、1901年に日本政府から勲一等瑞宝章を贈られた。その経緯は次のようである。 明治政府は西洋の科学技術を導入するため、1870年に工部省を設置して、そこを窓口として多くの外国…

世界哲学史4

しばらく閉まっていた地元の図書館が再開した。ここのところ本を読んでいなかったので、気晴らしにこんな本を読んでみた。全部を読むつもりはなく、気になった章だけつまみ食い。6章「中世西洋の認識論」と7章「西洋中世哲学の総括としての唯名論」に目を通…

論争に値しない論争

仕事が忙しくて本を読む時間がぜんぜんとれないのだが、気晴らしに手に取ってみた本を読んで、さらに暗澹とした気分になったので紹介してみる。 読んだのは小谷野敦『現代文学論争』。小谷野氏の本を私はほとんど読んだことがなくて、たしか『日本文化論のイ…

病は気から

アヘンを服用するとなぜ眠くなるのかという疑問に、それはアヘンに催眠力が備わっているからだ、と言っても何も説明したことになっていない、という話がある。出典はモリエールの『病は気から』という戯曲らしいが、この話の社会的な背景は次のようなものら…

対数正規分布

最近読んだ松下『統計分布を知れば世界が分かる』(中公新書)は、正規分布・べき乗分布・対数正規分布がそれぞれどのように現実世界の統計的現象に当てはまるのか分かりやすく説明されていて参考になったのだが、一つ気になった点をメモしておく。 身長が正…

B-29をもっとよく知ろう

3月10日は東京大空襲の日。今年はテレビで東京大空襲に触れられることが妙に多かったような気がしたのだが、何か理由があるのだろうか。今どきの人は東京大空襲の日付も知らないとか、そんな話を何度か耳にした。 日付だけ覚えてもあまり意味はないと思うの…

英文読解の参考書

英文読解のスキルがなかなか向上しないので、基本に立ち戻るつもりで久しぶりに参考書を手に取ってみた。いい感じの本を二冊ほど紹介してみる。 一つめ。 越前敏弥の日本人なら必ず誤訳する英文 決定版 作者:越前 敏弥 発売日: 2019/08/29 メディア: 単行本…

クリプキ再訪

大澤はさまざまな箇所でクリプキの固有名論を魔改造して提示している。 例えば、木田元にしたがって事実存在と本質存在の差異を「xがある」と「xである」の違いとしてとらえた上で、「存在論的差異というと深遠にきこえるが、分析哲学でいえば固有名の反記述…

マシュー・パリス

ソクラテスは書かぬ人だったが、弟子のプラトンはソクラテスのアイデアを(どこまで忠実かは分からないが)対話篇の形で後世に残した。…という通説に反した中世の絵がある。どういうわけか、プラトンが後ろに立ってソクラテスに本を書かせている絵になってい…

どのような名前で呼ばれようとバラはバラ

What's in a name? That which we call a rose by any other name would smell as sweet (名前がなんだというの?バラと呼ばれるあの花は ほかの名前で呼ぼうとも甘い香りは変わらない) ジュリエットはロミオに「モンタギュー」という名前は重要じゃないか…

不文の教説

古代の哲学者に関する記録はあまり残っていないわけだが、彼らは文書に書き留めたり公の場で発言するといった仕方で明示的に発表した教義のほかに、親しいごく少数の人々の間でのみ秘密の教義を共有していた、という伝説もある。 この種の伝説は近世に入って…

サイリス

英国観念論の哲学者として有名なジョージ・バークリーは、晩年、タール水なるものを世の中に広めようとした。タール水とは、松材を乾留してとるタールと水からつくられる水溶液で、アメリカの民間療法によれば、ほとんどすべての病に効くという。多少の殺菌…

傍観者効果

帰宅途中に、道端で倒れている人を見かけた。すでに周囲にいたひとが声をかけて介抱していたのでそのまま通り過ぎてしまったのだが、そのとき私の中で、心理学で学んだ傍観者効果の話を連想した。困った人がいるとき、周囲に人が多くいるほど誰も助けない、…

確実性と真理

自然科学が特殊な歴史的文脈に相関した相対的な知であるということは、科学史の専門家がくりかえし確認してきたことだ。ヒトは自然科学以外の真理の体系を保有しうるし、現に保有してきた。自然科学の見地から見ると「神話」でしかない、世界についての説明…