Skinerrian's blog

論理学・哲学・科学史・社会学などに興味があるので、その方面のことを書きます。更新は不定期。

児玉『オックスフォード哲学者奇行』

オックスフォード大学にゆかりのある哲学者たちの人生模様を紹介する本.哲学の話はあまり扱われていないが,ゴシップが豊富で自分も知らない話も多かったので,読んでいて楽しい本だった.吹き出しそうになることも何度もあった. たとえば,ライルとエア(…

ペドフィリア

今年3月にBBCがジャニー喜多川による性加害を報道したが,ようやく日本のマスコミでもこの件が大々的に取り上げられるようになった.大手企業もCMを打ち切りはじめているみたいだし,帝国の終焉も近いのだろうか. ところで,最近ヴェロニク・モティエ『14歳…

確定記述とは何か

東浩紀は「確定記述」を理解しているのか問題がXで話題になってるらしい.北大の院生が東浩紀にいろいろと突っかかっているようだ. Xユーザーの鈴木盲点(The Blind Spot)さん: 「確定記述は対象を一つに特定できるような句でなくてはならないので「男性」は…

ヴァイオレット・エヴァーガーデンを見る

京都アニメーションの最高傑作と言われる『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』を見た.これを見るにNetflixに入ったと言ってもいいくらいである(さいきん話題になっている実写版One Pieceとかも見てしまったが,それはまた別の話). 京アニの作品,『けい…

オッカムの剃刀

マクファデン『世界はシンプルなほど正しい』という本を読んでいる.オッカムの剃刀がいかにして近代科学の形成と発展に貢献したか,その歴史を追う本.分からない部分も多いがそれでも十分面白い. 類書としては,グリーンブラット『1417年,その一冊がすべ…

哲学者のAI論

人間の最も素晴らしいところが知性ならば人工知性の発展は脅威と受け止められるだろう。しかし、人間の最も素晴らしいことろは知性ではないとすれば、これは大した脅威ではなくなる。実際、ダーウィンはミミズについての実験と観察の末「体制こそ下等なれど…

コンピューターは人のように話せるか

トレヴァー・コックス『コンピューターは人のように話せるか』(白揚社)を読んだ.著者は音響工学を専門にする英国の研究者.この本は声の進化から人工知能との会話まで,声にまつわる多様な話題をカバーしている. 情報量が非常に多い本で,なんなら最初の…

必要条件と十分条件

資料があることは研究を開始する十分条件ではありますが,必要条件とはなりません.大量に存在する資料が示唆する大量の「それ」のなかから自分の研究テーマを選択するのは,自分の問題関心にほかなりません.自分の問題関心をもって資料に問いかけることか…

意味場

社会システム理論では意味論semantics という概念が枢軸を成す。この概念は歴史学の観念史研究に由来する。例えば「生徒」という概念は独立自存せず「先生」「学校」…などの諸概念からなるパッケージの中で初めて意味を持つ。このパッケージを意味論という。…

ラッセルの自叙伝

マット・リドレーの『やわらかな遺伝子』を読んだのだが、ところどころで興味深い蘊蓄が披露されていてよかった。個人的に一番驚いたのは、刷り込みを発見したのはローレンツではないというくだりで、スポルディングという生物学者に触れた箇所である。 スポ…

パスタでできた牛

DALL-E(ダリ)という画像生成プログラムが今年の一月にOpenAIから発表されて 話題になった。「アボカドの形をしたアームチェア」のようなテキストを入力として受け取って、それらしい画像を返すプログラムである。分かりやすい解説が DALL·E を5分以内で説…

言語学レクチャーシリーズ

この1年はYouTubeで講演とか講義を視聴する機会がかなり増えた。最近見つけた国立国語研究所の言語学レクチャーシリーズもなかなかいい。 国立国語研究所 言語学レクチャーシリーズ(試験版) - YouTube 個人的におすすめなのは、第1回の「音韻構造と文法」…

國分『はじめてのスピノザ』

スピノザの属性概念は、デカルトの「心身二元論」(精神と身体(物体)をそれぞれ独立したものとする考え方)への批判として捉えることができます。デカルトは精神と身体を分け、精神が身体を操作していると考えました。巨大ロボットの頭に小さな人間が乗っ…

高校物理

高校の科目でいちばん難しいのは物理だと思う。個人的な意見だし、自分は大学受験で物理を使わなかったので、それもあるとは思うけど、それを割引いても物理は難しい。 物理に苦手意識のある人には、最近見つけた以下のYouTubeのチャンネルがお薦めだ。 PHYS…

ムペンバ効果

同じ体積の、高温の水と低温の水を冷却すると、高温の水のほうが早く凍ることがある、という話がある。これは、発見者となったタンザニアの中学生にちなんで「ムペンバ効果」と呼ばれる*1。 ムペンバ効果 - Wikipedia 信じがたい話だが、再現するのは難しい…

デカルトの気象学

バターフィールド『近代科学の誕生』を眺めていたら、デカルトに関するこんな記述を見つけた(上巻p.182f)。 『気象学』の中で、彼は、よく人の口にのぼる、雲が血の雨を降らすこととか、雷が石に変わることとかについて、説明を試みている。実際、彼は新事…

笑う哲学者

ブラックバーンが編集している『図鑑 世界の哲学者』という本を図書館で借りてみたのだが、美しい図版がたくさん収録されていて大変面白い。文章を読まずに眺めてるだけで楽しめる。 デモクリトスの肖像画とか、はじめて見た気がする。 「陽気なデモクリトス…

米英東亜侵略史

今日は真珠湾攻撃の日ということだが、しばらく前に大川周明の『米英東亜侵略史』を読んだ。ラジオの講演原稿だというけど、よく書けている。いろいろ問題はあるにせよ、当時の右翼がどういう筋道であの戦争を正当化しようとしたのかが分かる、興味深い本だ…

ファクシミリ

たしかウィトゲンシュタインの論文集だったと思うが、いろんな雑誌に掲載された論文を組版とかをまったく変えずに集めただけの論文集をむかし研究室で見かけた。雑誌に掲載されたときのページ数とかもそのままコピーされているので、ある意味便利だなと思っ…

エンダートンの教科書

最近、定評あるHerbert Endertonの教科書(A Mathematical Introduction to Logic)の日本語訳が出た。私もこの本で論理学を勉強した人間の一人なので、この素晴らしい本が多くの人に読まれるのは喜ばしい。 論理学への数学的手引き 作者:Herbert B. Enderto…

ヘンペルのカラス(2)

哲学とは万物を熟考しつづける学問だが、どんな仮説に対してもぼんやりし続ける、ということにかけて常人の想像を絶するような例が数多く存在している。たとえばそのうち1つが「ヘンペルのカラス」という考え方だ。 これはドイツのカール・ヘンペルが1940年…

岸辺のアルバム

昔のTBSドラマ「岸辺のアルバム」をYouTubeで見つけたので見てしまった。多摩川沿いの一軒家で一見幸せそうに暮らす普通の家庭だが、母親は不倫、姉は堕胎、父親は会社の仕事で人身売買、という惨状に高校生の息子が悩む、という話らしい、ということは前に…

民主主義科学者協会

近代科学は、つとにカッシラーが見抜いたようにプラトン的「理性論」の正嫡子なのであって、それをしもベーコンだの実験だのに帰そうとするミンカが、いまだに文部省官許の教科書にたむろしているのは悲劇とさえ言うのもおろかしい。(大庭健『はじめての分…

サピア=ウォーフ説

サピア=ウォーフ説、つまり、いわゆる言語決定論は、ヘロドトスがギリシャ人とエジプト人の思考様式の違いを言語の違いに求めたのが最初だという話があるらしい*1。まったく聞いたことがなかったので、調べてみた。 ネットで適当に検索しまくったところ、次…

マット・リドレー『進化は万能である』

マット・リドレーの『進化は万能である』を読んだ。彼の本はまえに『徳の起源』を読んだことがあるが、翻訳のせいなのか読みづらくてよい印象がなかった。それと比べると、今回読んだ本はずっと読みやすい。ただ、多種多様な話題をあつかってるため、一章ご…

ガリレオの話

Amazonを見ていたら、君塚『ヨーロッパ近代史』というちくま新書のKindle版が妙に安く、またレビュー評価も高かったので、なんとなく買ってみた。タイトルに似合わず、章ごとに時代を代表するいろいろな人物を取り上げる人物伝になっているのが特徴的。ダヴ…

ケルヴィン、グラスゴー大学

科学史の小ネタ。 スコットランドのグラスゴー大学教授だったケルヴィン卿は*1、1901年に日本政府から勲一等瑞宝章を贈られた。その経緯は次のようである。 明治政府は西洋の科学技術を導入するため、1870年に工部省を設置して、そこを窓口として多くの外国…

世界哲学史4

しばらく閉まっていた地元の図書館が再開した。ここのところ本を読んでいなかったので、気晴らしにこんな本を読んでみた。全部を読むつもりはなく、気になった章だけつまみ食い。6章「中世西洋の認識論」と7章「西洋中世哲学の総括としての唯名論」に目を通…

論争に値しない論争

仕事が忙しくて本を読む時間がぜんぜんとれないのだが、気晴らしに手に取ってみた本を読んで、さらに暗澹とした気分になったので紹介してみる。 読んだのは小谷野敦『現代文学論争』。小谷野氏の本を私はほとんど読んだことがなくて、たしか『日本文化論のイ…

病は気から

アヘンを服用するとなぜ眠くなるのかという疑問に、それはアヘンに催眠力が備わっているからだ、と言っても何も説明したことになっていない、という話がある。出典はモリエールの『病は気から』という戯曲らしいが、この話の社会的な背景は次のようなものら…