Skinerrian's blog

論理学・哲学・科学史・社会学などに興味があるので、その方面のことを書きます。更新は不定期。

対数正規分布

最近読んだ松下『統計分布を知れば世界が分かる』(中公新書)は、正規分布・べき乗分布・対数正規分布がそれぞれどのように現実世界の統計的現象に当てはまるのか分かりやすく説明されていて参考になったのだが、一つ気になった点をメモしておく。 身長が正…

B-29をもっとよく知ろう

3月10日は東京大空襲の日。今年はテレビで東京大空襲に触れられることが妙に多かったような気がしたのだが、何か理由があるのだろうか。今どきの人は東京大空襲の日付も知らないとか、そんな話を何度か耳にした。 日付だけ覚えてもあまり意味はないと思うの…

英文読解の参考書

英文読解のスキルがなかなか向上しないので、基本に立ち戻るつもりで久しぶりに参考書を手に取ってみた。いい感じの本を二冊ほど紹介してみる。 一つめ。 越前敏弥の日本人なら必ず誤訳する英文 決定版 作者:越前 敏弥 発売日: 2019/08/29 メディア: 単行本…

クリプキ再訪

大澤はさまざまな箇所でクリプキの固有名論を魔改造して提示している。 例えば、木田元にしたがって事実存在と本質存在の差異を「xがある」と「xである」の違いとしてとらえた上で、「存在論的差異というと深遠にきこえるが、分析哲学でいえば固有名の反記述…

マシュー・パリス

ソクラテスは書かぬ人だったが、弟子のプラトンはソクラテスのアイデアを(どこまで忠実かは分からないが)対話篇の形で後世に残した。…という通説に反した中世の絵がある。どういうわけか、プラトンが後ろに立ってソクラテスに本を書かせている絵になってい…

どのような名前で呼ばれようとバラはバラ

What's in a name? That which we call a rose by any other name would smell as sweet (名前がなんだというの?バラと呼ばれるあの花は ほかの名前で呼ぼうとも甘い香りは変わらない) ジュリエットはロミオに「モンタギュー」という名前は重要じゃないか…

不文の教説

古代の哲学者に関する記録はあまり残っていないわけだが、彼らは文書に書き留めたり公の場で発言するといった仕方で明示的に発表した教義のほかに、親しいごく少数の人々の間でのみ秘密の教義を共有していた、という伝説もある。 この種の伝説は近世に入って…

サイリス

英国観念論の哲学者として有名なジョージ・バークリーは、晩年、タール水なるものを世の中に広めようとした。タール水とは、松材を乾留してとるタールと水からつくられる水溶液で、アメリカの民間療法によれば、ほとんどすべての病に効くという。多少の殺菌…

傍観者効果

帰宅途中に、道端で倒れている人を見かけた。すでに周囲にいたひとが声をかけて介抱していたのでそのまま通り過ぎてしまったのだが、そのとき私の中で、心理学で学んだ傍観者効果の話を連想した。困った人がいるとき、周囲に人が多くいるほど誰も助けない、…

確実性と真理

自然科学が特殊な歴史的文脈に相関した相対的な知であるということは、科学史の専門家がくりかえし確認してきたことだ。ヒトは自然科学以外の真理の体系を保有しうるし、現に保有してきた。自然科学の見地から見ると「神話」でしかない、世界についての説明…

Socratica

新年早々に教育系のYouTubeチャンネルで結構よさげなものを見つけたので、紹介してみる。英語だけど、一つ一つの動画は短いし字幕を見ながらなら十分対処できる。かなり入門的な内容なので、ある程度知ってる人には何の意味もないだろうけど、入口で躓く人に…

ワニのジレンマ

河岸で人食いワニが子供を人質にとり、子供の親に「自分がこれから何をするか言い当てたら子供を食わないが、不正解なら食う」と言った。これに対し、親が「あなたはその子を食うでしょう」といったらどうなるか。 ワニのパラドックス - Wikipedia これは自…

ゴットの推定

https://www.youtube.com/watch?v=8cjPClcnv50 Gottの推定を解説する上の動画をみて、「これどっかで読んだことあるような」と思い、しばらく本棚を探したところ、三浦俊彦『論理パラドクス 勝ち残り編』で「デルタt論法」という名称で紹介されているのを見…

ニューカムの問題

ニューカムの問題(ニューカムのパラドクス)は、リバーモア放射線研究所の物理学者であるウィリアム・ニューカムによって考案され、ロバート・ノージックとマーティン・ガードナーの紹介によって有名になった、とされる。しかし、考案者のニューカム博士と…

ルイセンコ

科学史や科学哲学で有名なルイセンコ事件について紹介してみる。 ソ連の生物学者トロフィム・ルイセンコはウクライナに生まれた。1928年の論文で、ルイセンコは秋まき性の植物を低温処理すると早めに出芽する「春化」を報告し、これを低温処理によって秋まき…

ラクトースオペロン

YouTubeの人気チャンネル「予備校のノリで学ぶ大学の数学・物理」で、最近、システム生物学という講座がはじまった。「物理みたいな生物学をやろう」というスローガンで、最初の二回は、遺伝子制御を微分方程式つかってモデル化するという話をされている。 …

ヘンキンの問題

ゲーデルは不動点定理を用いて「この文は証明できない」という趣旨を表現する算術の文gを構成して、gが無矛盾な公理系では証明も反証もできないことを示して、算術の不完全性を示した。 それでは、「この文は証明できる」を表現する算術の文を構成したらどう…

ワルトトイフェル

最近、ワルツの指揮者として有名なロベルト・シュトルツによるワルトトイフェルのアルバムを聴いている。ワルトトイフェルというと、スケートをする人々(スケーターズワルツ)くらいしか知らなかったのだが、「女学生」とか楽しい曲をたくさん書いた人なの…

ディカプリオの彼女

レオナルド・ディカプリオの年齢の推移と、彼女の年齢の推移を示したグラフというものを見かけた。 このグラフはなかなか味わい深い。まず、25歳がage limitとなっているのに笑ってしまうが、少し経って、1年以上彼女がいないということがなく、3年連続で彼…

エンペドクレス

「ねえ、エンペドクレスのサンダルの話知ってる?」 「え、なんだって。」 「エンペドクレスって、世界で一番最初に、純粋に形而上学的な悩みから自殺したんですって。」 「へえ。」 「それでヴェスヴィオスの火口に身を投げたんだけど、あとにサンダルが残…

大内宿とイザベラ・バード

この前紹介した、YouTubeの「ゆっくり大江戸」で大内宿の動画を見て触発されたので、その勢いで大内宿に行ってきた。知らない人向けに簡単に説明すると、大内宿は福島県南会津あたりの宿場。江戸時代の雰囲気が残った景観が魅力的で、年間100万人ちかい観光…

アルキメデスの大戦

映画「アルキメデスの大戦」を見た。思うところは色々あるのだが、一つだけ。Yahoo映画のコメントを読んだところ、「イミテーションゲーム」のパクリでは、という感想を述べる人が何人かいたのだが、私自身は昔読んだ小室直樹『危機の構造』の次の箇所を思い…

ゆっくり解説動画

このところYouTubeでゆっくり解説動画を見るようになった。いろんな話題に関して、初心者向けで質の高い解説に手軽にアクセスできるので非常に助かる。ゆっくりボイスに拒否反応を示す人も多いけど、私は気にならないどころか、生声よりも落ち着いて聞けるよ…

学問に王道なし

この警句のルーツについては諸説ある。 おそらく一番有名なのは、ユークリッドがエジプトの王プトレマイオスにそう言ったという説。この説は5世紀の新プラトン主義者プロクロスの『ユークリッド原論1巻への注釈』で述べられているという。しかし、プロクロス…

パラドクスの効用

ラッセルのパラドクスは、パラドクスというよりも「ラッセル集合なんて存在しない」という趣旨の定理だという風に言われることがある。これは単に言葉の問題だと思うのだが、どちらの見方にも意義があると思う。 数学の基礎に関心のある哲学者なら、素朴集合…

コペルニクスは司祭か

ギンガリッチとマクラクランの『コペルニクス』は優れた入門書だが、翻訳で一つ気になる点がある。どうしようもなく些末な問題ではあるが。 コペルニクスはフロムボルクの司教座聖堂参事会員(カノン)だった。この翻訳ではカノンを「律修司祭」と訳している…

伝統論理と存在措定

伝統論理と現代の論理学の違いとして、主語概念の存在措定がよく指摘される。実際のところ、伝統的な三段論法の中には、存在措定なしには妥当でないものが幾つか混じっている。例えば、 すべてのMはPである すべてのSはMである よって、あるSはPである たし…

ジェンダー

ある有名な症例研究では、生後八か月の男児が包皮切除の失敗でペニスを失った。両親は有名な性研究家のジョン・マネーに相談した。マネーはかねて「自然な姿というのは、性差の現状を維持しようとする者たちの政治的戦略である」と主張していた。彼は、赤ち…

実証主義

お勉強メモ。 positiveという語*1 後期のシェリングは、これまでの哲学は消極哲学だが、自分の哲学は積極哲学positive Philosophieだと言った。このように積極的と訳す場合のpositivにはnegativが対義語となるが、事実に基づく・実定的という意味で使うとき…

二重否定除去則と排中律

直観主義論理は排中律と二重否定除去則が成り立たない論理として知られる。どちらか一方を付け加えると、他方も導出できて、古典論理になる。 それでは、排中律と二重否定除去則は同値といってよいのだろうか。もちろん、直観主義論理の上では同値なのだが、…