Skinerrian's blog

論理学・哲学・科学史・社会学などに興味があるので、その方面のことを書きます。更新は不定期。

デカルトの気象学

バターフィールド『近代科学の誕生』を眺めていたら、デカルトに関するこんな記述を見つけた(上巻p.182f)。

『気象学』の中で、彼は、よく人の口にのぼる、雲が血の雨を降らすこととか、雷が石に変わることとかについて、説明を試みている。実際、彼は新事実や異常現象を発見するために実験を行うよりも、常識として受け入れられている事がらを彼の方法を適用して説明することの方がおもしろいと言っている。

いまあげたような彼のいわゆる公認の「事実」には、吟味もせずにスコラ学者の著作から取り入れたものが多い。

赤字部分のようなことを本当に言っているのかと思い、調べてみたらあっさり見つかった。正直何を言っているのかよく分からないのだが、とりあえず、白水社の増補版『デカルト著作集』1巻所収の「気象学」第七講から引用する。

まず、雷が石に変わるという話は以下。

雷は、もしこのような浸滲性の強い蒸発物のあいだに、ときに脂肪性の、硫黄を含んだ他の多くの蒸発物があるならば、非常に固い石に変わって、ぶつかるもののすべてを折り、砕くことがあるが、とりわけ、もっと大きくて、雨水を器に入れて澄ませるときその底に見られるあの土に似た蒸発物の混じっているときがそうである。実験によって見られるとおりであって、このような土と硝石と硫黄のいくらかを混ぜ合わせたのち、この合成物に火を点ずると速やかに石が形づくられるのである。p.288

血の雨については以下。

いくつものさまざまな性質をもつ蒸発物があるのだから、雲がそれらを圧することによって、それらが持つ色と濃度により、あるいは腐敗して、わずかの時間でなにがしかの小動物を生み出すような物質がときにつくられることが不可能だとは思われない。たとえばさまざまな奇蹟の物語のなかに、しばしば鉄や血やバッタやそれに類するものが天から降ったとあるのがそれである。p.289

スコラ学者の著作から取り入れられているという点については、訳注によると、ポルトガルコインブラ大学にあるイエズス会の大学教授たちが書いた『スタギラの人アリストテレスの気象の諸巻注解』という本が典拠になっているらしい。この本はラ・フレーシュ学院で教科書として使われていたらしく、ジルソンはこの本とデカルトの「気象学」の比較研究を行って多くの類似点を見出した、とのことだ。

ワインバーグの『科学の発見』は、「気象学」第八講にある虹の説明をデカルト最高の業績として紹介している。ワインバーグによれば、デカルトの仕事には間違いが多すぎて、過大評価されている、とのことである。実際、間違いのサンプルがいくつか紹介されていたと思うが、上述のような箇所は紹介する価値もないという感じか。