サピア=ウォーフ説、つまり、いわゆる言語決定論は、ヘロドトスがギリシャ人とエジプト人の思考様式の違いを言語の違いに求めたのが最初だという話があるらしい*1。まったく聞いたことがなかったので、調べてみた。
ネットで適当に検索しまくったところ、次の文献がヘロドトスについて言及しているのが分かった。
- Joshua Fishman (1980), "The Whorfian hypothesis: varieties of valuation, confirmation and disconfirmation I" https://www.degruyter.com/view/journals/ijsl/1980/26/article-p25.xml
冒頭から引用する。
Herodotus (who suspected that Egyptian behavior was often opposite to Greek behavior because Egyptians wrote from right to left whereas Greeks, by then, wrote from left to right)
これだけで、『歴史』のどの箇所を参照しているのかわからなかった。が、頑張って調べたら、次の箇所が関連してそうだと気づいた。
ギリシア人は文字を書いたり計算をする時、手を左から右へ運んでするが、エジプト人は右から左へする。それでいながらエジプト人は、自分たちが右向きに書き、ギリシア人は左向きに書くのだといっている。*2
しかし、文字を書く方向が逆であるがゆえに、思考様式が逆だ、とは書かれていないように思った。私が見落としたのだろうか。しかし、いちおう少し前から読んでみると、35節に
エジプト人はこの国独特の風土と他の河川と性格を異にする河とに相応じたかのごとく、ほとんどあらゆる点で他民族と正反対の風俗習慣をもつようになった*3。
と書かれており、ここからしばらく、エジプトとギリシアで正反対になっている風俗習慣が羅列されていく。文字を書く方向の違いはその一環として語られている。