Skinerrian's blog

論理学・哲学・科学史・社会学などに興味があるので、その方面のことを書きます。更新は不定期。

大内宿とイザベラ・バード

この前紹介した、YouTubeの「ゆっくり大江戸」で大内宿の動画を見て触発されたので、その勢いで大内宿に行ってきた。知らない人向けに簡単に説明すると、大内宿は福島県南会津あたりの宿場。江戸時代の雰囲気が残った景観が魅力的で、年間100万人ちかい観光…

アルキメデスの大戦

映画「アルキメデスの大戦」を見た。思うところは色々あるのだが、一つだけ。Yahoo映画のコメントを読んだところ、「イミテーションゲーム」のパクリでは、という感想を述べる人が何人かいたのだが、私自身は昔読んだ小室直樹『危機の構造』の次の箇所を思い…

ゆっくり解説動画

このところ、暇な時間にYouTubeでゆっくり解説動画を見てる。いろいろな話題に関して、初心者向けで質の高い解説に手軽にアクセスできるので、非常に助かる。ゆっくりボイスに拒否反応を示してしまう人も多いみたいだけど、私は特に気にならないどころか、も…

学問に王道なし

この警句のルーツについては諸説ある。 おそらく一番有名なのは、ユークリッドがエジプトの王プトレマイオスにそう言ったという説。この説は5世紀の新プラトン主義者プロクロスの『ユークリッド原論1巻への注釈』で述べられているという。 しかし、プロクロ…

パラドクスの効用

ラッセルのパラドクスは、パラドクスというよりも「ラッセル集合なんて存在しない」という趣旨の定理だという風に言われることがある。これは単に言葉の問題だと思うのだが、どちらの見方にも意義があると思う。 数学の基礎に関心のある哲学者なら、素朴集合…

親子婚

宮脇『中国・韓国の正体』を読んでいて少し気になったことがあったので記してみる。 著者によると、唐の帝室と貴族たちはもともと大興安嶺山脈のあたりにいた「鮮卑」と呼ばれた遊牧民出身なのだという。この王朝の異質さは、次のような事例に見て取れる。 …

コペルニクスは司祭か

ギンガリッチとマクラクランの『コペルニクス』は優れた入門書だが、翻訳で一つ気になる点がある。どうしようもなく些末な問題ではあるが。 コペルニクスはフロムボルクの司教座聖堂参事会員(カノン)だった。この翻訳ではカノンを「律修司祭」と訳している…

伝統論理と存在措定

伝統論理と現代の論理学の違いとして、主語概念の存在措定がよく指摘される。実際のところ、伝統的な三段論法の中には、存在措定なしには妥当でないものが幾つか混じっている。例えば、 すべてのMはPである すべてのSはMである よって、あるSはPである たし…

ジェンダー

ある有名な症例研究では、生後八か月の男児が包皮切除の失敗でペニスを失った。両親は有名な性研究家のジョン・マネーに相談した。マネーはかねて「自然な姿というのは、性差の現状を維持しようとする者たちの政治的戦略である」と主張していた。彼は、赤ち…

実証主義

お勉強メモ。 positiveという語*1 後期のシェリングは、これまでの哲学は消極哲学だが、自分の哲学は積極哲学positive Philosophieだと言った。このように積極的と訳す場合のpositivにはnegativが対義語となるが、事実に基づく・実定的という意味で使うとき…

二重否定除去則と排中律

直観主義論理は排中律と二重否定除去則が成り立たない論理として知られる。どちらか一方を付け加えると、他方も導出できて、古典論理になる。 それでは、排中律と二重否定除去則は同値といってよいのだろうか。もちろん、直観主義論理の上では同値なのだが、…

タブローとシークエント計算

タブローはシークエント計算の特殊例にすぎない、という話を昔聞いたことがある。一体どういうことだろう、と長いこと理解できないでいたのだが、最近になって、こういうことかな、と勝手に自己解決したのでちょっとメモしてみる。 古典論理のシークエント計…

様々な含意関係

哲学の文献では"entail"という用語がよく出てくる。意味合いとしては、AがBをentailするとは、Aならば必ずBといったところだろうか。それも、単なる必然性ではなく意味によって・概念的に必然的、といったニュアンスも含まれる。論理的帰結関係はentailの一…

グライスの「意味」

言語哲学者グライスの有名な論文「意味」は1957年に出版されたが、初稿が書かれたのはその10年ほど前だという*1。たしかに、邦訳の『論理と会話』に付けられた飯田先生の「グライス紹介」にも「発表は1957年であるが、もとの草稿は1948年に書かれたという」…

モンテホール問題

『アド・アストラ』にモンテホール問題が出てきたので、久しぶりにこの問題について考え直してみて、ふと気づいたことがあった。メモとして記してみる。 モンテがドアを開けた後で選択肢を変更したほうが正答の確率が上がるというのはパラドキシカルだと感じ…

完全なものから一部を取り除いたら不完全

「その、「二重否定除去則」を認めないと、古典論理で証明された定理の中で直観主義論理では証明できないものが出てくるんでしょう?」 「出てくるね、排中律とか、ド・モルガンの法則の一部とか」 「どうしてそんな不完全なものが許されるわけ?」 「いや、…

王水

王水(aqua regia)は金をも溶かす強酸として知られる。では、王水はどのようにして発見されたのだろうか。wikipediaの「王水」によれば 西暦800年前後、イスラム科学者のアブ・ムサ・ジャービル・イブン=ハイヤーンにより、まず食塩と硫酸から塩酸ができる…

ヒルベルトスタイル

現在、論理学での「証明」のやり方としてしばしば採用されるものとしては、「タブロー」の他に、ゲンツェンが考案した「自然演繹」と呼ばれる方法がある。そして自然演繹の方法は、かつての「公理的方法」などに比べれば、はるかに習得が容易であるしー公理…

野本『現代の論理的意味論』

先日、フリーマーケットで野本和幸『現代の論理的意味論』を¥100で購入した。大庭健『はじめての分析哲学』とか飯田隆『言語哲学大全』3巻の読書案内で紹介されていたのでだいぶ以前から気になっていた本だが、なかなか手に入らなかった。図書館で少し眺めた…

フロイト『続・精神分析入門講義』

『言語哲学大全』で推薦されている論理学の入門書、Wilfrid Hodges, Logic で、演繹的に妥当な推論の例として、次のような文章が紹介されている。 Criticisms which stem from some psychological need of those making them don't deserve a rational answe…

『日本人のための宗教原論』

この手の本は、宗教に関する日本人の誤解を正す、といった体裁をとることがよくあるが、読むたびに「本当にこれでいいのか?」と思うことが少なくない。この本の場合、イスラム教は別にしても、キリスト教と仏教には天国・地獄なんてものはない、と断言して…

「日本史のミカタ」のミカタ

日本史のミカタ (祥伝社新書) 作者: 井上章一,本郷和人 出版社/メーカー: 祥伝社 発売日: 2018/09/01 メディア: 新書 この商品を含むブログを見る 東大史料編纂所の本郷和人教授と日文研の井上章一教授の対談本を読んだ。関東史観の本郷と京都史観の井上によ…

free, meinongian, inclusive

古典的な一階論理から踏み外す3つの方法について考えてみる。 タームの指示対象は量化のドメインのメンバーである。 自由論理free logicでは、この仮定が外れる。「ゼウス」みたいな名前は指示対象がないか、あったとしてもゼウスは量化のドメイン外に置かれ…

数理神学

落合仁司という神学研究者知ってる?本業は経済学なんだけど、俺からみるとトンデモ系なんだね。神の存在は数学的に証明できると言っている。カントールの集合論があるでしょ。…それで彼は、神には矛盾してることがたくさんあると。たとえば三位一体は、神は…

起源の剽窃

あまりに偉大な文化的名声のゆえに、ギリシャ哲学は憤りを買うこともあった。ギリシャ哲学によって自分たちが文化的に追いやられていると感じた集団が、ギリシャ哲学には新しいものは全く何もない、それはことわりもなく剽窃を行なってきた伝統にすぎないと…

ゲーデルの定理(6)

「自然数論は無矛盾であるならば不完全である」、これがゲーデルの第一不完全性定理である。さらにゲーデルはもっと驚くべき定理を証明した。今自然数論の無矛盾性が証明されたと仮定しよう。このとき「この命題は証明可能でない」という命題が論理的に真で…

最凶の敵は自分の中にいる

The worst foe lies within the self. 最凶の敵は自分の中にいる。 スクウェアの Parasite Eve のオープニングムービーに出てくるこのフレーズ。どうもニーチェの『ツァラトゥストラはかく語りき』第一部の「創造者の道」に由来する*1。 しかし君が出会う最…

t検定

『みんなのR』という本(初版)を使って、統計とプログラミング言語のRを並行して勉強している。しかし、やり始めて分かったが、この本は統計についての解説が分量的にかなり貧弱で、すでに理解のある人でないと読みこなすのが難しい。私の場合、初心者に毛…

ステファヌス数

岩波文庫などでプラトンの本を手に取ると、ページの上の方に数字が印字してあるのが目につく。これはステファノス数といって、1578年に古典学者・印刷業者のアンリ・エティエンヌ(ラテン名ヘンリクス・ステファヌス)によって刊行された3巻本のプラトン全集…

バーンスタイン『豊かさの誕生』

ウィリアム・バーンスタイン『豊かさの誕生』を読んでいる*1。 本書で目指しているのは、19世紀の初頭に合流し、その後の近代世界に飛躍的な経済成長をもたらした文化と歴史の諸潮流を明らかにすることだ。p.6 amazonのレビューなどを見ると、類書としてダ…