この警句のルーツについては諸説ある。
おそらく一番有名なのは、ユークリッドがエジプトの王プトレマイオスにそう言ったという説。この説は5世紀の新プラトン主義者プロクロスの『ユークリッド原論1巻への注釈』で述べられているという。しかし、プロクロスはユークリッドより7世紀も後の人物であり、証言としては新しすぎる。また、同じようなやり取りが、幾何学者メナイクモスとアレクサンドロスとの間でなされたという伝承もある*1。こちらの伝承の方が前であることから、プロクロスの説は信憑性が低い。
「学問に王道なし」はアリストテレスが若い頃のアレクサンドロス大王に言ったセリフであるという伝承もある*2。たしかに、アリストテレスは大王の家庭教師だったから、そんなこともあったのかもしれない。でも、こちらの伝承の典拠は何なのだろう*3。
ちなみに、アリストテレスとアレクサンドロスに関しては、「学問に王道なし」の他に次のような伝承もある。アリストテレスは、生徒のアレクサンドロスに慎み深さを説く一方で、アレクサンドロスの恋人から挑発されると、あえなく誘惑されてしまう。そのありさまをアレクサンドロスに目撃され、「先生、これはどういうことですか」と問われると、「私のような老いぼれでもこの有様だから、若い君はもっと気を付けなければならない」と言った、と*4。この伝承も信憑性は低いと思われるが、ちょっと面白い。