Skinerrian's blog

論理学・哲学・科学史・社会学などに興味があるので、その方面のことを書きます。更新は不定期。

エンペドクレス

「ねえ、エンペドクレスのサンダルの話知ってる?」 「え、なんだって。」 「エンペドクレスって、世界で一番最初に、純粋に形而上学的な悩みから自殺したんですって。」 「へえ。」 「それでヴェスヴィオの火口に身を投げたんだけど、あとにサンダルが残っていて、きちんとそろえてあったんですって。」 「へえ。」 「素敵ね、エンペドクレスって。」 「うん(?)」 「サンダルがきちんとそろえて脱いで合ったんですって。いいわあ。」 「ふーん。」*1

wikipediaには、ヴェスヴィオ火山ではなくエトナ火山に飛び込んだという逸話が載っているので、どういうこっちゃと思ったのだが、調べてみるとことごとく通説とズレているのが分かって、これはもうわざと改変してるんだろうなと思った。

ディオゲネス=ラエルティオスの『列伝』には次のようにある。宴会が終わって夜が明けると、エンペドクレスの姿はなかった。これに関して諸説あるのだが

ヒッポボトスによれば、エンペドクレスは起き上がってから、アイトナの方へ向かって旅立っていったのであり、そして噴火口のところまでたどり着くと、その中へ飛び込んで姿を消したが、それは、神になったという自分についての噂を確実なものにしたいと望んでのことであったという。しかし後になって、事の真実は知られることになった。というのも、彼が履いていた靴の片方が焔で吹き上げられたからであるが、それは彼が青銅製の靴を履くのを習慣にしていたからだというのである*2

*1:庄司薫『赤頭巾ちゃん気をつけて』新潮文庫p.15

*2:『哲学者列伝』8巻、邦訳下巻p.66