Skinerrian's blog

論理学・哲学・科学史・社会学などに興味があるので、その方面のことを書きます。更新は不定期。

ラクトースオペロン

YouTubeの人気チャンネル「予備校のノリで学ぶ大学の数学・物理」で、最近、システム生物学という講座がはじまった。「物理みたいな生物学をやろう」というスローガンで、最初の二回は、遺伝子制御を微分方程式つかってモデル化するという話をされている。

遺伝子制御ってそういえば高校生物で少しだけ習ったなぁ…そういえば、モノーとジャコブが発見した大腸菌のオペロンの仕組みってよく理解できなかったんだよな、と思い調べてみた。昔の自分がどの辺で躓いたのか掴めた気がするのでメモしてみる。

シンプルで分かり易いのは、トリプトファンオペロンにみられる負の自己制御*1大腸菌トリプトファンを合成するが、必要以上に合成しないように、トリプトファン濃度が高くなったらリプレッサーがオペレータ部位にひっついて転写を止める。これが分かり易いのは、最終生成物が増えてくると自分の合成を止めにかかってくるから。

昔の私が躓いたと思われるのは、ラクトースオペロンの仕組み。これはラクトース[β-ガラクトシド]をグルコースガラクトースに分解する酵素[β-ガラクトシダーゼなど]の合成を制御する仕組みだが、上の例と違う点がある。グルコース濃度が上がると酵素の合成が止まる、という点は似ているのだが、今回リプレッサーを制御するのはラクトースの方なのだね。要点としては:

  • ラクトース濃度が高くなければ酵素をコードする構造遺伝子の転写をはじめる理由はない。リプレッサーはオペレータ部位にひっついているのがデフォルトで、ラクトース濃度が高くなるとリプレッサーがオペレータ部位から外れる。
  • グルコースの方はというと…。オペロンの上流の方にCAP結合部位という領域があって、グルコース濃度が低いときはサイクリックAMP(cAMP)という分子がCAPという調節タンパク質と結合して、CAP結合部位にひっつく。これで構造遺伝子を転写するスイッチが入る。グルコース濃度が上がると、cAMPがCAPから離れてCAP結合部位からも離れる。これで転写のスイッチがオフになる。

こちら(↓)の解説が分かり易かった。トリプトファンオペロンとの違いにも注意が払われている。

なぜこういう風にできているのか疑問だが、ラクトース代謝系はグルコースが欠乏した場合に備えてのバックアップだと考えれば納得できる気がする。変なアナロジーだが、夜間に自動で点灯する照明は暗闇を探知してるわけではなく、あくまで周囲の光を探知していて、光が不足することでスイッチが入る、というのと似ている気がする。光がないとスイッチが入る。グルコースがないとスイッチが入る。

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*1:ヨビノリの講義の2回目で解説されている負の自己制御の仕組みは、トリプトファンオペロンに近い。