帰宅途中に、道端で倒れている人を見かけた。すでに周囲にいたひとが声をかけて介抱していたのでそのまま通り過ぎてしまったのだが、そのとき私の中で、心理学で学んだ傍観者効果の話を連想した。困った人がいるとき、周囲に人が多くいるほど誰も助けない、というあの話だ。
周囲に人がいるほど責任感が拡散してしまうのだろうというのは理解しやすい。しかし、困った人の立場からすれば、べつにみんなに助けてもらう必要はなくて、誰かひとりにさえ助けてもらえればよい、ということが多いだろう。そうすると、周囲にいる人が多いほど、一人一人がその人を助ける確率は下がるとしても、人数が多くなればその効果は相殺されそうな気もしてくる。傍観者効果のはなしが教えてくれるのは、そんな風な相殺は起きない、ということだ*1。
適当に数学的なモデルを考えてみる。周囲にいる人がn人のとき、各人が困った人を助けない確率は、p(n) という関数で一様に表せるとする。p(n) は増加関数で、定義域は1以上、値域は(0, 1) 区間。すると、周囲にn人いるときに誰も助けない確率は、p(n) のn乗で表せる。さて、傍観者効果の話の教訓は、p(n) のn乗もnが(ある程度大きければ)増加関数となり、1に収束する、ということだと思われる。例えば、p(n) = n/(n+1) としよう。この関数は n → ∞で1に収束する。んで、p(n) のn乗は、n = 1 で1/2, n = 2で4/9, n = 3で9/16, n = 4で16/25・・・という具合になる。つまり、二人のときに最小となり、そのあとは増加していくのだろう。かなしいなぁ。
*1:アイゼンク『マインド・ウオッチング』p.31