Skinerrian's blog

論理学・哲学・科学史・社会学などに興味があるので、その方面のことを書きます。更新は不定期。

王水

王水(aqua regia)は金をも溶かす強酸として知られる。では、王水はどのようにして発見されたのだろうか。wikipediaの「王水」によれば

西暦800年前後、イスラム科学者のアブ・ムサ・ジャービル・イブン=ハイヤーンにより、まず食塩と硫酸から塩酸ができることが発見され、それを濃硝酸と混合することで開発された。

たしかに、王水は濃硝酸と濃塩酸を1:3の体積比で混合して得られる。しかし、王水の発見者も同じような製法で王水を作ったのだろうか?これはちょっと疑わしい。塩酸の製法が見つかったのはもっと後だと言われるからだ。かなり古い本だが、ダンネマンの『大自然科学史』によると、中世のアラビア科学では塩酸がまだ知られていなかった*1。15世紀のバシリウス・バレンティヌスという修道士、あるいは、16世紀のリバビウスという人が初めて合成したのではないか。

では、イブン=ハイヤーン(ゲーベル)は塩酸ぬきでどうやって王水を作ったのか。実は、塩化ナトリウムに濃硝酸を加えても王水はできる。高校の授業(?)で、この方法で王水を作らせた先生もいるみたいだ。歴史的な発見の順序にも沿っており、素晴らしい指導なのではないかという気がする。

 

*1:大自然科学史』3巻p.130