Skinerrian's blog

論理学・哲学・科学史・社会学などに興味があるので、その方面のことを書きます。更新は不定期。

数学

対数正規分布

最近読んだ松下『統計分布を知れば世界が分かる』(中公新書)は、正規分布・べき乗分布・対数正規分布がそれぞれどのように現実世界の統計的現象に当てはまるのか分かりやすく説明されていて参考になったのだが、一つ気になった点をメモしておく。 身長が正…

ゴットの推定

https://www.youtube.com/watch?v=8cjPClcnv50 Gottの推定を解説する上の動画をみて、「これどっかで読んだことあるような」と思い、しばらく本棚を探したところ、三浦俊彦『論理パラドクス 勝ち残り編』で「デルタt論法」という名称で紹介されているのを見…

モンテホール問題

『アド・アストラ』にモンテホール問題が出てきたので、久しぶりにこの問題について考え直してみて、ふと気づいたことがあった。メモとして記してみる。 モンテがドアを開けた後で選択肢を変更したほうが正答の確率が上がるというのはパラドキシカルだと感じ…

ゲーデルの定理(6)

「自然数論は無矛盾であるならば不完全である」、これがゲーデルの第一不完全性定理である。さらにゲーデルはもっと驚くべき定理を証明した。今自然数論の無矛盾性が証明されたと仮定しよう。このとき「この命題は証明可能でない」という命題が論理的に真で…

t検定

『みんなのR』という本(初版)を使って、統計とプログラミング言語のRを並行して勉強している。しかし、やり始めて分かったが、この本は統計についての解説が分量的にかなり貧弱で、すでに理解のある人でないと読みこなすのが難しい。私の場合、初心者に毛…

ブール代数の公理系

ブール代数の公理系についてのメモ。論理学の本では、束→分配束→ブール束という順番で公理系を強化していくが、新たに公理を付け加えたことで、中には冗長になる束の公理もあるらしい。ハンティントン(1904年)の公理系は 同一律 identity 交換律 commutati…

チャーチのラムダ計算

wikipediaの「ラムダ計算」によると 元々チャーチは、数学の基礎となり得るような完全な形式体系を構築しようとしていた。彼の体系がラッセルのパラドックスの類型に影響を受けやすい(例えば論理記号として含意 → を含むなら、λx.(x→α) にYコンビネータを適…

コルモゴロフ

ルイセンコ説は、権力が科学に介入するとどんな悲惨なことが起きるのかの例証として、科学史や科学哲学でよく用いられる。しかし、一体どういう理由で獲得形質の遺伝がソ連において正統な学説とみなされたのだろうか。 先日紹介したマット・リドレー『徳の起…

黄金比

18禁の映画『ニンフォマニアック』(2013年)で、フィボナッチ数とか黄金比とかピタゴラスの定理の話をする場面がある。スクリプトは以下。 The [Fibonacci] sequence has an interesting connection to Pythagoras' theorem of the Golden Section. It was …

ボロノイ図

最近、ボロノイ図Voronoi diagramというものを耳にした。直観的な説明としては、平面上に複数個の点が与えられたときに、それらの点への近さによって平面を領域分けした図のこと。領域と領域の境界線は、与えられた点と点の二等分線(の一部)になる。詳しく…

リリカルLISP

最近プログラミングの勉強を始めてみた。どの言語を学ぶか迷ったけど、初心者らしく(?)Pythonを選択。Pandasの扱いに四苦八苦してますが、私は元気です。 プログラミングといえば、随分まえに「リリカルLISP」というフリーゲームをやったことがある。LISP…

フレーゲ著作集5

5巻の編者解説を読んだ。 フレーゲ著作集〈5〉数学論集 作者: G.フレーゲ,野本和幸,飯田隆,Gottlob Frege 出版社/メーカー: 勁草書房 発売日: 2001/08 メディア: 単行本 クリック: 1回 この商品を含むブログ (2件) を見る このシリーズのほとんどの巻で編者…

婚姻規則と群

人類学者の講演を聴く機会があったのだが、それで、未開社会の婚姻規則の話はやはりちょっと面白そうだという気がしてきて、その後自分で少し調べてみた。とりあえず、昔読んだことのある橋爪大三郎『はじめての構造主義』を家の本棚からひっぱりだして、関…

ゲーデルの定理(4)

論理学者のytb先生にask.fmで質問をしてみたら回答があった。 照井先生の著書を読んでいたら、ロビンソン算術QにΣ1式の帰納法を足した体系では原始再帰的関数が定義可能になる、… — いい質問ですね!それは、何をメタ理論とするかという、論理学における本質…

ゲーデルの定理(2)

仲正昌樹はゲーデルの定理についてこんなことを書いている。 「不完全性定理」というのは、「現代思想」の文脈に合わせて簡略化して言うと、いかなる無矛盾な体系においても、その体系自体の中では証明も否定もできない論理式=命題が存在する、ということで…

ゲーデルの定理

大澤真幸はゲーデルの定理についてこんなことを言っている。 ゲーデルの第一不完全性定理と第二不完全性定理は、次のことを意味している。すなわち、(自然数論を含む)形式体系が含まざるを得ない決定不能命題の存在は、体系内のすべての命題(論理式)の決…

ベキ

次の記事を読んで少し考えた。 possible - in saecula saeculorum "-potent"という接尾辞は、数学で「ベキ」と訳されるという話。「冪等idempotent」とか「冪零nilpotent」など。これと関連するのが、累乗を英語では "power" と呼ぶという事実である。例えば…

集合論入門

集合論入門 (ちくま学芸文庫) 作者: 赤攝也 出版社/メーカー: 筑摩書房 発売日: 2014/03/10 メディア: 文庫 この商品を含むブログを見る この本が文庫化したのは結構素晴らしいことなんじゃないかと思ったり。以前、先輩から薦められたけど絶版だったので、…

虚数

虚数についてのメモ。まず、基本事項の確認。 虚数の定義は一般には「実数でない複素数」となっている。ただ、これとは違うことをいう人もいる。マンガ『虚数霊』には「2乗してマイナスになるのが虚数」という表現がある(1巻p.19)。これらは同値ではない。…

吉永良正『ゲーデル・不完全性定理』

この本は、「ゲーデル」という名前すら知らなかった頃にはじめて手に取った。パラパラ読んでみて面白いところは幾つかあったけど、例の定理の説明を含めてほとんど理解できなかったと思う。 後になって、この本は色々と細かいミスがあって問題のある本だとい…

素朴集合論?

分析哲学を勉強していると、集合論にしばしば出くわす。集合論といっても、本格的な公理的集合論ではない。ツールとしての集合論、それもごくごく初歩的な集合論だ。しかし、私のような文系人間は、ベキ集合とか和集合とか直積といった用語の定義くらいなら…

全単射

今日は全単射の話をしてみる。無限論の教室 (講談社現代新書)作者: 野矢茂樹出版社/メーカー: 講談社発売日: 1998/09/18メディア: 新書購入: 24人 クリック: 198回この商品を含むブログ (168件) を見るこの本は図形的に一対一対応を説明している。手元に本が…

反射性と同一律

それほど昔のことではないのだが、「反射性と同一律はどう違うの?」という疑問を持ったことがある。…うん、まぁ大分違うよね…。関係Rが反射的と言われるのは、任意のxについてxRxが成り立つとき。例えば、実数上で定義される「≦」などは反射的。要するに、関…

幾何級数

「幾何級数」という言葉は、マルサスの議論を紹介するときによく目にする。集団の個体数の増え方は指数関数的なのに、食料の生産量は算術級数的にしか増えない。この落差は弱肉強食・適者生存の原理によって埋められるはずだというのが彼の推論だった。それ…