Skinerrian's blog

論理学・哲学・科学史・社会学などに興味があるので、その方面のことを書きます。更新は不定期。

虚数

虚数についてのメモ。まず、基本事項の確認。

  • 虚数の定義は一般には「実数でない複素数」となっている。ただ、これとは違うことをいう人もいる。マンガ『虚数霊』には「2乗してマイナスになるのが虚数」という表現がある(1巻p.19)。これらは同値ではない。例えば、"1+i"は実数でない複素数だけど、二乗しても負の実数にならない。でも、『虚数霊』の定義は割とよくみるので、べつに誤解とか間違いではないのかもしれない。しょせん定義だし。
  • 英語だとimaginary numberだが、マンガ『Q.E.D.』7巻p.84には「イメージング・ナンバー」と書いてある…*1
  • 歴史的には、虚数という表現を導入したのはデカルトらしい*2
  • 複素数は直観的なイメージがつかめないので難しそうだが、実数から集合論的に構成するのは実はとても簡単だったりする(二次元にするだけ・・・)。有理数から実数を構成する方がよっぽど難しい。

人文系における乱用

  • 直観的な分りにくさを兼ね備えているので、ポストモダン思想で悪用されたことがある。ラカン無理数虚数を混同しているという指摘を、ソーカル、ブリクモンがしている(*3。また、ソーカルらの解釈では、ラカンは『エクリ』で、ファルスを虚数単位iと等価だというナンセンスを語っている。一部の人々が「虚数チ○ポ」と揶揄するゆえんである*4
  • 宮台真司氏は虚数を比喩として用いることを好んでいるようだが*5虚数をもちだすことがどれだけ本質的なのか疑問に思う。二つの物差しがあるとか二つの次元があると言うだけじゃダメなんだろうか…。

*1:cf. 複素数iなんですが、どうして大小がないんですか... - 数学 | Yahoo!知恵袋

*2:幾何学』(ちくま学芸文庫)のp.95

*3:『知の欺瞞』邦訳p.35

*4:http://d.hatena.ne.jp/rothko/20080506

*5:確認できた限りでは、遅くとも2004年以降。『宮台真司interviews』p.376を参照。Miyadai.comで検索すると大量に用例が出てくる。