Skinerrian's blog

論理学・哲学・科学史・社会学などに興味があるので、その方面のことを書きます。更新は不定期。

つつましい実証主義

柄谷行人が近著『哲学の起源』について『atプラス 思想と活動』で対談をしていて、こういうことを言ってる。

初期ギリシャ哲学というのは、資料がろくにないから、推定するほかありません。その意味では、僕のように専門的な知識を持たない者には有利なのですが(笑)(p.12)

言いたいことは分かるけれど、たぶん哲学史の専門家は

  1. 初期ギリシャ哲学については推定するほかない
  2. 推定するには専門知識は邪魔である
  3. ゆえに、専門知識がない方が有利である

みたいな推論はしないだろうと思う。というか、前提がどっちもマズいんじゃなかろうか。資料が限られているなら限られたことしか確実には言えず、推定するときにトンチキなことを言わないためにも専門知識は必要だ、と言い張ることだってできる。 たぶん「資料から飛躍しないと面白いことが言えない」という考えが前提2.を支えてるんだろうなぁ…。

随分前の本だけど、小田中直樹歴史学ってなんだ?』という本がある。もうほとんど内容を覚えてないのだが、冒頭で歴史小説家と歴史学者の違いは何かを論じていたと思う。そこで著者はいっけん古臭い実証主義的な態度を歴史学者のとるべきものとして推していたと思う。つまり、資料から確実に言えそうなことだけをつつましく言う。私はつつましい人がいい。