「その、「二重否定除去則」を認めないと、古典論理で証明された定理の中で直観主義論理では証明できないものが出てくるんでしょう?」
「出てくるね、排中律とか、ド・モルガンの法則の一部とか」
「どうしてそんな不完全なものが許されるわけ?」
「いや、直観主義命題論理の完全性は証明できるらしいよ」
「だって、古典命題論理の完全性も証明されているんでしょ?」
「うん」
「そうさ」
アリスはそこで勝ち誇ったように、言った。
「完全なものから一部を取り除いたら不完全になるのよ。知らなくって?」*1
この練習問題はよくできている。巻末の模範解答によれば
「完全」ということは意味論に相対的だからね。古典論理の意味論に従えは、もちろん直観主義の公理系LIPは不完全になる。だけど、直観主義は直観主義の意味論を提出するわけだ。そして、その意味論のもとでは、公理系LIPも完全になることが示されているんだ。(逆に、直観主義の意味論からすれば、古典命題論理の公理系LPは論理的真理でないものまで含んだ不健全なものとなる)
ということは、例えば、「一階論理なら完全性を証明できるけど、二階論理では無理」といった言い方には注意しないといけない。二階論理(命題論理だろうと述語論理だろうと)について、標準的な意味論を採用した場合には不完全だが、非標準的な意味論(ヘンキンの意味論など)を採用すれば完全性がいえる。どの意味論と相対的に完全/不完全なのかについて自覚的でないといけない。
*1:野矢『論理学』p.184