この本をななめ読みしている。物理の難しい話はほとんど出て来ないので、純粋に歴史の本として多くの人が興味深く読めるものになっていると思う。個人的には異論もあって、例えば、プラトン主義は自然に対して数学を適用することを戒めるという山本先生の解釈には同意しない。特に、プラトン自身に関しては、ブラックバーンのいう科学的解釈に私は共感する。しかし、そんな事情はともかく、本書はとにかく情報量が多くて勉強になる。衝撃的だった。
ところで、山本先生は東日本大震災の後に福島本を出されたわけだが*1、本書にはそれに関連するようなことも書かれていて、やや驚いた。なにしろ締めくくりが
フランシス・ベーコンのような自然に対するその攻撃的な姿勢は現在何らかのはどめを必要とするレベルにまで到達しているのであって、その歯止めは基本的には自然いたいする畏れに根差さなければならない p.721
だし、「あとがき」では
原子炉はたとえ無事故で稼働し終えたとしても、放射線に汚染された廃炉となり、大量のプルトニウムをふくめて運転期間中に蓄積された放射性廃棄物と共に、人間の時間間隔からすれば半永久的に隔離されなければならなくなる。p.735
などなど。本文中でも、タルタリアが軍事研究は非人道的であることについて反省の念を述べているのを引用していたり(p.445f)、また、ポルトガルのインド航路発見が、アフリカの部族に対する虐殺行為の上に成り立っていることを指摘してたりする(p.461f)。