歴史の本を気晴らしに幾つか読んだので感想を書いておく。
オリバー・ストーンが語る もうひとつのアメリカ史 1 二つの世界大戦と原爆投下
- 作者: オリバー・ストーン,ピーター・カズニック,大田直子,鍛原多惠子,梶山あゆみ,高橋璃子,吉田三知世
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2013/04/04
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (14件) を見る
去年NHKでオリバー・ストーンが製作したドキュメタリーを放送していた。全部見たわけではないけど面白かったので書籍版にも手を出してみた。本書の叙述はアメリカの黒い歴史をひたすら挙げていくという意味で偏りがあるが、原題は"The Untold History of the United States"なので、これは意図的であろう。序文で栄光のアメリカ史についての記述は他に適切な本がいっぱいあるとか言っているし。
たぶん本書で一番話題になったのは、「アメリカが日本に原爆を落とした本当の理由は、定説となっている日本に早期の降伏を促すためではなく、あくまでソ連を牽制する目的だった」と主張している本書の4章であろう*1。原爆投下は日本が降伏する要因の一つだったかもしれないが、主要な要因はソ連が参戦して本土に進行してくることへの恐怖だった、というのが本書の診断である。特に、トルーマンに対する罵りは苛烈を極め、幼少期のエピソードを持ち出してちょっとした精神分析をしている(p.300f)。
本書でソ連は好意的(?)に描かれており、例えば、3章の副題は「誰がドイツを打ち破ったのか?」だが、答えはソ連である。イギリスとアメリカはドイツとの正面衝突を恐れていて北アフリカで軍を展開していた。孤立無援のソ連は独力で形成を立て直して、スターリングラードの戦いに勝利した(p.240, 245)。
従軍慰安婦に関する発言で、オリバー・ストーンがネトウヨの怒りを買ったのは記憶に新しいが、本書にも彼らを激怒させるであろう記述がある。
日本軍は中国の都市を次から次へと落とし、12月には南京を制圧して大規模な虐殺をおこなった。民間人の犠牲者は20万から30万レイプされた女性の数は8万人にのぼるとも言われている。p.207f
広島に住む約30万人の市民、4万3000人の兵士、4万5000人の朝鮮系強制労働者…は、ちょうど一日を始めるところだった。p.347
本書はもともと読みやすい英語だと思われるので、翻訳を読んでいてほとんど問題を感じなかったが、Amazonのレビューで指摘されてるように、たしかに幾つかこなれてないところがある。「レンドリース法」(p.217)とかは最初見たとき「ファッ?」ってなったし。