Skinerrian's blog

論理学・哲学・科学史・社会学などに興味があるので、その方面のことを書きます。更新は不定期。

ヘンペルのカラス

ここ数日、確証confirmationの概念について少し調べていたので、簡単にメモしてみる。

文同士の関係としての確証関係は、演繹関係のちょうど逆であるように思える。そこで

  • H ├ E ⇔ E confirm H.

と定義することが考えられる。もっとも、単独の仮説から観察文が出てくるわけではないという点(デュエムのテーゼ)に留意して、背景知識Kを定義に組み込んだ方がいいかもしれない。そこで、

  • H, K ├ E ⇔ E confirm H.

とマイナーチェンジしてみる。これを仮説演繹法と呼んでおく。

仮説演繹法は次に示す特殊帰結条件(ヘンペル)と合わせると、確証概念が崩壊する、つまり、任意の文が確証されてしまうことが知られている。

  • E confirm H & H ├ H' ⇒ E confirm H'.

ここで選択が生じる。ヘンペルは特殊帰結条件を擁護して、仮説演繹法を捨てたのだった。

ところで、ヘンペルは、更に、「ニコの基準」とよばれる確証関係の十分条件を擁護している。ここでいうニコの基準とは

  • Fa&Ga confirms ∀x(Fx→Gx)

というものである。特殊帰結条件とニコの規準を組み合わせると、いわゆるカラスのパラドクスが生じる*1。ヘンペルは白い靴下などが「すべてのカラスは黒い」を確証するという帰結を受け入れることでパラドクスに応答した。これが標準的な確証理論のストーリーであると思う。

しかし、ググったらこういう記事が出てきた。

初めてこの議論をフォローしたのだが、ヘンペルの結論があまりにも強引で驚いた。それだけ古典主義論理(というか『プリンキピア』)の与えたインパクトが大きかったのだろう。なにがどう強引かというと、論理的に等値であることを理由にa「黒くかつカラスでないものが存在する」ことの事例がb「全てのカラスは黒い」の証拠になると頑張っているところである。…これはひどい。もしヘンペルが正しいなら鳥類学者はわざわざ調査になどいかなくてよいはずである。*2

うーん、そもそも「黒くかつカラスでないものが存在する」が「∃x(Bx & ¬Rx)」のことだとすれば、式bの対偶ではないし。ヘンペルによる確証の論理学は定性的な分析だから、黒くもカラスでもない対象の観察が「カラスは黒い」を確証するとしても、それはもの凄く弱い意味で確証しているに過ぎないかもしれない。こう言うのはそんなに馬鹿げているのだろうか。ヘンペルの確証理論が反直観的な帰結をもつのだとしても、このパズルだけで退けてしまうのはちょっとどうかな、と思う。

事実・虚構・予言 (双書プロブレーマタ 7)

事実・虚構・予言 (双書プロブレーマタ 7)

Postscript (2014/4/4)

上に挙げた本を読んでいたら、1章の註で「パリー(Parry)」っていう名の人が出てきたのだけど、ロマサガ好きの私としては「パリィ」と呼びたいですね。本当にどうでもいいことだけど。

*1:パラドクスを提示するだけなら、特殊帰結条件よりも弱い同値条件でもよい。同値条件とは、EがHを確証し、HとH'が論理的に同値ならばEはH'を確証するというものである。

*2:130 If snow be white, why then her breasts are dun; : ページからページへ