アニメ『サカサマのパテマ』を観た。このアニメでは、上下が逆転した二つの世界とそこで暮らす人種を描いている。監督によれば、青空の下で寝そべっていると、空に向かって落ちていきそうな錯覚を映像にしたかったのだそうだ。映像は美しくて、なかなかインスピレーションに富んでいる。
話は変わるけど、最近読んだ思想史の本に、上下の逆転にまつわる面白い話が書いてあったので、ちょっと紹介してみる*1。
昔の哲学者たちは、植物と人間を対比することを好んだらしい。プラトンによると、人間は「地中ではなく天上に根をもつ植物」である*2。魂の知性的な部分を含む頭部は、地上ではなく天上の世界と親縁なのだとか。逆に、アリストテレスによれば、口は栄養摂取に関係しているので、頭は植物の根に喩えられる。つまり、
現代からみると奇抜なこの対比は、しかし、古代にだけ見られるわけではないらしい。フランシス・ベーコンは、「人間は逆さまになった植物であるという、類似と符号も、不合理なものではない」と言った。また、初期近代の医学者チェザルビーノは、『植物論』(1583)において、人間と植物のどちらも直立している、と論じた。動物も栄養摂取は腹部の胃腸の毛細血管から発して心臓や頭の方に登っていくからだ、と論じているのだとか。
こういう植物と人間の明確な対比が崩れるのは、唯物論者のド・ラ・メトリの書いた「人間植物論」(1748)という小冊子らしい。ド・ラ・メトリというと「人間機械論」で有名だけど、要するに、人間と機械の間に絶対的な区別なんてないし、同じように、植物との間にも区別なんてない、ということか。