Skinerrian's blog

論理学・哲学・科学史・社会学などに興味があるので、その方面のことを書きます。更新は不定期。

野本『現代の論理的意味論』

先日、フリーマーケットで野本和幸『現代の論理的意味論』を¥100で購入した。大庭健『はじめての分析哲学』とか飯田隆言語哲学大全』3巻の読書案内で紹介されていたのでだいぶ以前から気になっていた本だが、なかなか手に入らなかった。図書館で少し眺めたことがあるが、辞書のような本なので手元にあるといいなぁと前から思っていた。これほどの低価格で手に入ったのは収穫だった。

目次を見て、興味の湧いた箇所をいくつか拾い読みした。辞書のようで通読するには向いていないけど、辞書といえばそもそもSEPのない時代にこれほど情報量の多い本が出ていたというのは凄いことだと思った。今現在でも読む価値はあるのでは。確かに『言語哲学大全』でこの本の多くの話題はカバーされているが、初期のカプランの仕事なんかはこの本くらいでしか近づけないのではなかろうか。

なお、カルナップの様相論理を紹介しているところで個人的に引っかかるところがあったのでメモしておく。まず、次の箇所(p.196)

次のような言表様相と事象様相との相互連携が含まれる文脈では、変項の付値の中立性(外延的文脈では外延を、内包的文脈では内包を付値する)というカルナップの方策は、依然として困難を含むであろう。

(*)∃x(x = the number of planets and nec(x = the number of planets))

この箇所は、少し前の記述と整合しないように思う。

『意味と必然性』の様相論理の対象言語においては、変項はもっぱら内包をその値にとる、つまり個体変項は個体概念を、述語変項は特性を、文変項は命題を変域とするという見解が新しく採られている。p.192

思うに、後者の方がたぶん正しい。つまり、necの中か外かによってxの値が変わるということはない。

では、(*) はどうやって解釈されるのか。この本の意味論では、文は可能世界と変項へのアサインメントと相対的に真理値をとる。(*) によれば、ある世界wとアサインメントaのもとで、なんらかの個体概念が x = the number of planets and nec(x = the number of planets) を満たす。a(x) の値を惑星の数-概念としよう。惑星の数-概念にwを食わせた値は、もちろん惑星の数-概念にwを食わせた値と等しい。よって、x = the number of planetsはw, aのもとで成り立つ。また、任意の世界w'で同じことが言えるから、nec(x = the number of planets) もw, aのもとで成り立つ。だから、正しい文なんじゃないかな。