クリステヴァは出身国のブルガリアが共産主義だった時代に秘密情報機関員だった、という噂が流れている。
フランスのポスト構造主義思想家で精神分析医のジュリア・クリステヴァ氏が、出身国ブルガリアで共産主義時代に秘密情報機関員だったと、仏ロプス誌が伝えた。71年にリクルートされた時の書類を見つけたという。サビナという暗号名だったという(この項続く)。 https://t.co/pxHB4c9xls
— 国末憲人 Kunisue Norito (@KunisueNorito) 2018年3月29日
ブルガリアで共産主義時代に情報機関員だったと指摘されたジュリア・クリステヴァ氏本人は、疑惑を全否定。ルモンド紙によると「グロテスクで間違いであるだけでなく、中傷だ」と話しているという。 https://t.co/0dAvWo2qAW
— 国末憲人 Kunisue Norito (@KunisueNorito) 2018年3月29日
一応本人は否定しているみたいだし、本当かどうかはまだ分からない。けど、本当だったとしても驚きではないかな。『知の欺瞞』の序文によると、彼女は『知の欺瞞』を評して、アメリカの反フランス的な経済・外交運動の一環だという人身攻撃に打ってでたという話なので、イデオロギー色の強そうな人だなぁというのが元からの印象だったし、『中国の女たち』に対する山形浩生のレビューなんかを見ると…。長いけど引用しておく*1。
クリステヴァは中国共産党の手配で、文革末期の1974年に中国を二週間ほど訪れた。そのときの感想文が本書。二週間のパック旅行(それもかなり駆け足で各地をまわっている)ではろくなものが見られなかったようだ。話を聞いた相手はすべて、共産党の(当時の)公式見解しか語っていない。それでも分量が足りず、半分以上はマルセル・グラネの受け売りで昔の中国における女性の話をしたり、共産党初期の女性党員の話をしたりだが、いずれも聞きかじりレベル。
そして最終的には、共産革命が中国古来の男性重視家父長制を打ち破ろうとしていたとか、文革で女性の地位はかつてないほど向上とか、紅衛兵たちは親たちの劉少奇的な反動主義を打ち破ってさらに前進しようとしているとか、林彪がのさばっていたらひどいことになったとか、共産党のプロパガンダをそのまま繰り返し、「中国においては《神》のない、また《男》のない社会主義を目指す道が選ばれている」などと結論づける。
要するに、小難しい言葉で中国と文革の翼賛をやっているだけなのだ。かつて日本の一九八〇年代末のニューアカデミズムはそれを見抜けず、本書を「異邦の女のまなざし」などと持ち上げていたけれど、いま読むとひたすら悲しく情けないだけの無内容な本。