Skinerrian's blog

論理学・哲学・科学史・社会学などに興味があるので、その方面のことを書きます。更新は不定期。

楽しいプロパガンダ

プロパガンダについて書かれた新書サイズの解説書を読んでみた。 

たのしいプロパガンダ (イースト新書Q)

たのしいプロパガンダ (イースト新書Q)

 

プロパガンダというと、堅苦しい政治宣伝のようなもの、例えば、北朝鮮のテレビ番組とかをなんとなく連想してしまう。しかし、本書によれば、そういうプロパガンダはたしかに沢山あるのだが、一般大衆にとっても親しみやすい娯楽作品の中に政治的メッセージをうまく埋め込んであるような楽しいプロパガンダというものもある。実際に効果を上げるのはそういう楽しいプロパガンダであり、宣伝の技術に長けた指導者(レーニン、ゲッベルス金正日など)はそういうプロパガンダをつくろうとする・・・

というのが、本書の趣旨であり、5章にわたっていくつかの事例が取り上げられる。具体的には、1章では戦前日本のプロパガンダ、2章ではソ連ナチスドイツなど欧米のプロパガンダ、3章では北朝鮮のプロパガンダ、4章ではオウムやイスラム国など宗教組織のプロパガンダ、5章では『永遠の0』など近年の右傾化した人々によるプロパガンダがとりあげられる。平明に書かれていて、悪くない本だと思う。

ちなみに、本書によると、「プロパガンダ」はもともとは宗教に由来する言葉らしい(p.136)。1623年、グレゴリウス15世は、宗教改革に対抗して新大陸へのカトリック布教を強化するため、「教義布教聖省Sacra Congregatio de Propaganda Fide」を設置した。動詞「propago」はもともと動植物を繁殖させるという意味なので、教義を普及させるという意味で使われたのはこれが最初だとか。こういう、ちょっとお勉強になるような事柄が書いてあるのもいい。

3章の終盤では、最近は歴史ですらプロパガンダ合戦の戦場になっているとして、中国の抗日ドラマなんかが取り上げられている。著者は「歴史戦」という表現に注目している。この辺はもうちょっと掘り下げてくれると、ネトウヨには嬉しいんじゃないかな、と思ったりした(喜ばせる必要は特にないかもしれないが)。関心のある人は次の本なんかがお勧めできる。

題材として取り上げられるのは韓流ドラマだけだが、色々と勉強になる。この本によると、韓国が時代劇ドラマを通じて歴史プロパガンダを大々的に発し始めたのは2000年代前半あたりらしい。中国が「高句麗は中国史の一部だ」とか主張しはじめたので、それに韓国がキレて国民の愛国心を鼓舞するために制作されたのが、高句麗の伝説上の始祖の生涯を描いた「朱蒙」。この本のトーンは、韓国人はフィクションである時代劇ドラマと歴史学の区別がつかない困った人たち、というもので、ネトウヨが薄々思っているようなことがきちんと書かれている。