Skinerrian's blog

論理学・哲学・科学史・社会学などに興味があるので、その方面のことを書きます。更新は不定期。

宮台氏の科学的実在論

こういう文章を見かけたのだが

科学的実在論反実在論を取り上げている最初のセクションは本文全体に関係あるのだろうか。関係あるにしても、このセクションの議論は色々杜撰だと思う。例えば、

20世紀戦間期以降の主流は論理実証主義に代表される反実在論である。従来、惑星運動はニュートン力学(に基づくケプラーの法則)で説明されてきた。だが1919年に登場した特殊相対性理論は全く異なる仕方で惑星運動を説明し、以降パラダイムがシフト。ニュートン力学は実在からかけ離れていると見做された。 

論理実証主義が科学的反実在論を支持したのは確かだが*1、「20世紀戦間期以降」の科学哲学で反実在論が主流だとは到底言えないと思う。むしろ、20世紀後半になって、セラーズやパトナム、G. マクスウェルらによって実在論は復活を遂げた。

「特殊相対論」が登場したのは「1919年」ではなく1905年頃だと思う。この文章は惑星運動の説明を論じている文脈なので、水星の近日点移動を一般相対論が正確に説明したという歴史的な経緯を踏まえるならば、「特殊相対論」は「一般相対論」の誤植ではないだろうか。とはいえ、一般相対論が登場したのは1915年頃だと思われるので、それでも年号に関しては修正の余地がある。

アインシュタインは明確に実在論の立場に立つ。ユダヤ人の彼にしてみればナチスによるユダヤ人600万人大虐殺を記述する歴史的言明がムー大陸が存在したとする類の言明と選ぶ所のない仮説的ビジョンに過ぎなくなるのは許しがたい。だからこそ彼は観測以前は不確定なものが観測行為によってその都度収束するという類の言明さえ受け入れたがらなかった。 

たしかに、アインシュタイン量子論に不満をもっていたが、科学哲学で問題にされるような科学的実在論という立場を彼は明確に支持していたのだろうか?というか、そもそも、ここで歴史的言明の例を持ち出すことが、科学的実在論をめぐる論争と何か関係あるのだろうか。

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*1:追記:意味論的なレベルでの科学的反実在論と言った方が正確だったか。つまり、原子や電子といった観察不可能なものが存在するのか、という問いを立てる以前に、そもそも「原子」や「電子」は何も指していない、という立場だと思う。cf. 伊勢田『科学哲学の源流をたどる』p.3