Skinerrian's blog

論理学・哲学・科学史・社会学などに興味があるので、その方面のことを書きます。更新は不定期。

イースター島と文明崩壊

環境保護論者は、危機をあおるための常套手段としてイースター島の例を引き合いにだすらしい。『銃・病原菌・鉄』で有名なジャレド・ダイアモンドも、人口・環境問題によって崩壊した文明の例として、イースター島を挙げていた*1

人間がイースター島に住み始めた9世紀ごろ、島は亜熱帯性雨林におおわれていました。その後、18世紀にヨーロッパ人が訪れた時、高さ3メートルを超える木は残っていませんでした。燃料や巨石像を運ぶ資材にするため、すべて切り倒されたのです。海鳥以外の鳥類もとりすぎて絶滅しました。農地も失われ、人々は飢えました。木がないため島から逃げ出すカヌーをつくることもできず、争いあい自滅した。崩壊の末期には人肉食が横行していた証拠もあります*2

過剰な環境保護論に懐疑的なロンボルグは、なぜイースター島環境保護論者にとって興味深いケースなのかを次のように説明している。

チリの西沖合3200キロ以上のところにある小さなこの島は、島中に散在する800体以上の火成岩で作ったモアイ像で有名だ。考古学的な証拠によれば、ここで華開いた文明は、こうしたすごい石造を作る一方で、900年CE頃*3に森林を伐採して材木を石造のコロとして使い、さらに薪や建設材料にした。1400年頃にはヤシ森林が完全に消えてしまった。食糧生産が低下し、石造建設は1500年に終わり、そしてどうやら戦争と飢餓が人口を80%削減して、1722年にはすっかり衰退した社会がオランダ船に発見されたというわけだ。

それ以来、イースター島環境保護論者にとってこたえられないイメージを提供してきた*4

しかし、ロンボルグの指摘するところで、イースター島環境保護論にとって都合のよいサンプルかどうかは疑問の余地もある。上の引用につづく次のコメントを見てみよう。

ちなみに、太平洋に島は一万あって、衰退や崩壊を迎えたのはイースター島を含めてそのうち12だけだ…イースター島のあるモデルによれば、この島のユニークな動向は、それがきわめて発育の遅いヤシに依存していたせいじゃないかとされる。…このためイースター島は、速成のココナッツやフィジーオウギバ・ヤシのおかげで衰退しないほかのポリネシアの島とはかなりちがってくる。 

イースター島は例外的な特殊ケースだというわけである。

もっとも、環境保護論者はこの程度の指摘ではぐらつかないのかもしれない。文明が花開いた社会の絶対数が少ないのは誰だって知っているのだから。イースター島を引き合いに出したポイントは、たぶん、文明が花開いたという条件の下で破滅に向かう可能性は、単に破滅に向かう可能性よりも大きいということにあるのだろう…。

Postscript (2015/5/25)

そもそも、イースター島文明が内部紛争に向かって衰退したという証拠はない、という見解もあるらしい…。以下の見解が正しければ、イースター島は文明が内部から崩壊したという話ではなくて、単純にヨーロッパの文明が古い文明を破壊したというよくある話に落ち着くのだろうか。

イースター島文明、モアイ熱心につくりすぎて森林伐採進みすぎてエコシステム崩壊して内部紛争も絶えなくなり滅びにむかったと言われてきたけど、実際には内部紛争の証拠はなくモアイとは独立に土地を肥沃にするために森林は伐採され、伐採しきったあとも工夫をこらした農業で社会を持続させていた*5

問題は1722年に島を訪れたオランダ船が疫病をもたらし人口が激減し、その後も奴隷として島民が駆りだされ、カトリックの宣教師がキリスト教への改宗を進め、土地が買われ羊がもたらされ、そうして土地も文化も決定的に荒廃した。という話*6

Postscript (2021/9/5)

ブレグマンの『Humankind』を読んでいるが、この本の6章によれば、イースター島の文明崩壊に関するダイアモンドのシナリオは何もかもが間違っている。ブレグマンの本にも色々言いたいことはあるが、この部分に関しては彼の叙述はかなり説得的。

*1:wikipediaの「イースター島」の項目はダイアモンドの著書に基づいて書かれているようだ。イースター島 - Wikipedia

*2:朝日新聞」2012年1月3日朝刊

*3:原文ママ。西暦900年頃という意味か?

*4:ロンボルグ『環境危機をあおってはいけない』pp.59f

*5:https://twitter.com/kunisakamoto/status/602453976718647296

*6:https://twitter.com/kunisakamoto/status/602453990635339776