Skinerrian's blog

論理学・哲学・科学史・社会学などに興味があるので、その方面のことを書きます。更新は不定期。

木田元氏の死去

ハイデガー研究者として名高い木田元氏が亡くなった。ご冥福を祈りたい。彼の書いた哲学解説書や訳業の数々にはお世話になった。もっとも、私は現象学に関心が薄いこともあって、あまりよい読者ではないが、訳業の方では間違いなくお世話になった。現象学に関心の深いひとは、メルロ=ポンティの翻訳とかでお世話になっているかもしれないが、私の場合は、パノフスキー『象徴形式としての遠近法』やブラックバーンプラトンの『国家』』などで参考にさせてもらった。

Postscript (2014/10/6)

永井均氏による冷徹(冷酷?)なツイートを発見した。

多くの人が漠然と思っていたことをはっきり言ってしまった感じがある。私自身、翻訳家としての木田元氏には敬意を払っているつもりだが、彼の著書はというと・・・正直あまり面白いと思ったことがない。『反哲学入門』などを読んで思うのは、この人ゴシップ好きそうだなぁといったことだ*1。例えば、ソクラテスが処刑された理由の話とか、プラトンは世界周遊旅行のなかでユダヤ人居住地にも足を運んでいてユダヤ教から影響をうけたとか(p.63)、ニーチェと妹の近親相姦のうわさとか(p.232)、そういった話をしてる箇所では筆の滑りがとてもよい。永井氏みたいな哲学者なら、プラトンの話をするならグラウコンの挑戦とか他に取り上げるべき話があるだろう、といった感想を抱いても不思議ではない。それに対して、上のツイートで木田氏と対比されてる滝浦氏といえば、永井『ウィトゲンシュタイン入門』(ちくま新書)の読書案内で滝浦氏のウィトゲンシュタイン本が紹介されていたように記憶しているが、実際、これは結構いい本だと私も思う。

*1:さらに追記(2017/11/20):『KAWADE道の手帖 木田元』という本を図書館で流し読みをしてたら、三島憲一のエッセイがまさにこんな感じの指摘をしていて、自分の印象は正しかったのだなと思った。他の寄稿者たちが基本的に木田を賞賛してばかりなのと比べて、三島のエッセイは批判的で興味深い。