Skinerrian's blog

論理学・哲学・科学史・社会学などに興味があるので、その方面のことを書きます。更新は不定期。

論文捏造事件についての覚え書

小保方女史による論文捏造・剽窃事件に関連して調べたり考えたことを少しメモしておく。

類例について

許される行為ではないのは当然なのだが、論文剽窃はなんだかんだいって業界では割とあるように思われる。例えば

これは2年前の事件で、記事によれば「撤回論文数の世界最多記録」を打ち立てたというから恐れ入る。恥ずかしながら、つい最近までこの事件のことを知らなかった。ひょっとしたら、それほど一般の話題にはならなかったのかもしれない。2chとかでの今回の騒ぎとの関連でこの事件に言及した人はあまりいないという印象(少なくとも、iPS細胞の森口氏とか、偽作曲家の佐村河内氏への言及と比べると)。

ちなみに、理系だけでなく、文系でも恥ずかしい論文剽窃事件はある。例えば

など。

真理と正当化の区別

一般に、発見があったかどうかと、論文が正当な手続きに従って書かれているかどうかは区別すべきだと思われる。例えば、ある医薬品の有効性を主張する論文が、プラシーボとかの可能性をまったく吟味していなければ、真っ当な論文とは言えないだろうが、その医薬品は実際に有効性が高いということはありうると思う。「重要なのはSTAP細胞の有無だ」という言い方は、この区別の下に理解されうる…。

と思うのだが、東浩紀はこの区別を今回のケースに適用するのを論外だと主張している。

論文が撤回された以上、今後はもうSTAP細胞が実在するかどうかは問題にならない*1

今後、STAP細胞に類したなにかが発見されても、それは小保方が名付けたSTAP細胞とは関係ないんだよ*2

STAP細胞の現状、たとえばぼくがいま、「タイムマシン発明しました。過去行きました。証拠はこれです。おっと証拠コピペでした。でもほんとにタイムマシンあるんです。のちのちだれか見つけてくれると信じます」と言ったとして、それはタイムマシン発明ということになるかって話になってるのです*3

しかしこれは人間心理について考えさせられるね。小保方某が「これこれの根拠でSTAPがある」と言った。そのあと根拠がないことがわかった。だとすればそもそもSTAPは消えるはずなのに、多くのひとが「手段はどうでもいい、重要なのはSTAPの有無だ」と考える。人間の脳の弱点だね*4

この論法は、検証主義を前提するか、あるいは「STAP細胞」が「シャーロック・ホームズ」とか「ユニコーン」に相当するような虚構名だとしないと意味をなさないと思う。ただ、正直なところ、私はまったく分子生物学に明るくないし特に野次馬的に調べたわけでないので、STAP細胞の虚構性の度合いがどのくらいなのか判断できない。「カロリック」とか「バルカン」みたいな後で空虚だと分かったケースに似ている可能性もある。これらは虚構名ではない。