Skinerrian's blog

論理学・哲学・科学史・社会学などに興味があるので、その方面のことを書きます。更新は不定期。

クリスマスの由来

キリスト教に関する祭日が、ルーツをたどってみるとローマの異教的なお祭りにまでさかのぼることがしばしばある。クリスマスがその典型で、そもそもイエスが生まれたのは12月25日ではないのだとか。

16世紀後半にイエスの生誕日に関する批判が強まり、スイスの神学者ホスピアヌスは1593年の著作のなかで、クリスマスというのはローマで農耕の神サトゥルヌスを祝うために12月17日に行われた祭りに起源があるのではないかと疑ったという。また、1594年には新たな証拠として、ある古代の教父がアンティオキアで386年に行った説教のなかで、12月25日にキリストの生誕日を祝うという行事は10年前には知られておらず、最近になって「西」からやってきたのだと言っていることが分かった。年代学者スカリゲルは、この「西」をローマと断定した*1

 

中沢新一の、やや古いけど割と評判のよい本、『愛と経済のロゴス』は、クリスマスがローマのルペルカリア祭に由来すると言っている(p.184)。しかし、Wikipediaなどを見る限り、ルペルカリア祭は結婚の女神ユノを崇拝する祭であり、これは現在のバレンタインデーの起源のはずだ。クリスマスではない。

ローマ帝国皇帝・クラウディウス2世は、愛する人を故郷に残した兵士がいると士気が下がるという理由で、ローマでの兵士の婚姻を禁止したといわれている。キリスト教司祭だったウァレンティヌス(バレンタイン)は秘密に兵士を結婚させたが、捕らえられ、処刑されたとされる。処刑の日は、ユノの祭日であり、ルペルカリア祭の前日である2月14日があえて選ばれた。ウァレンティヌスはルペルカリア祭に捧げる生贄とされたという。このためキリスト教徒にとっても、この日は祭日となり、恋人たちの日となったというのが一般論である*2

というわけで、この点で中沢は間違っていると思う。

中沢の本でもう一つ気になっていることがある。上で参照したのと同じ箇所で、クリスマスの商業主義は1940年代のアメリカにルーツがあると彼は言っている。これは本当なのかなぁ。文献をきちんと参照してないから、あらゆる面で信用性が低いんだよなぁ。ぶっちゃけWikipediaの方がまだ信頼性が高いし…。

愛と経済のロゴス カイエ・ソバージュ(3) (講談社選書メチエ)

愛と経済のロゴス カイエ・ソバージュ(3) (講談社選書メチエ)

 

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*1:初期近代における「クリスマス終了のお知らせ」 - オシテオサレテ

*2:バレンタインデー - Wikipedia ただし、ヴァレンティヌスという人物の実在性には疑いもかけられてる。