Skinerrian's blog

論理学・哲学・科学史・社会学などに興味があるので、その方面のことを書きます。更新は不定期。

風立ちぬ

宮台真司が『風立ちぬ』についてコメントしている。


「つまらんかった」【宮台真司】宮崎駿監督の風立ちぬを語る。 - YouTube

うーん、YouTubeのコメント欄にもあるけど、現実の女を描いてないから駄目、っていうのはあまりに短絡的。菜穂子が抽象的すぎて受け付けないというのは分かるけど。実際、そういう感想を持った人はけっこういるとは思う。一番最後のドリームヴィジョンで「結核で死んだ妻が楽しそうに出てくるという展開」は最悪だとか…*1。そういう私自身も、べつに恋愛要素はなくてもよかったと思っているし。

でも、現実の女を描いてるかどうかしか作品を評価する物差しがないとすれば、それはあまりに寂しい。だって、そんなこと言ったら、ギャルゲーとかエロ漫画なんて軒並みゴミになっちゃうじゃないですかー。

この映画の魅力はやっぱり、計算尺を携帯していて三角関数表とかを使ってなんか難しそうな計算をガリガリやっている科学者じゃないですかね。魚の骨を見ながら「美しい」と言ってみたり。どこかエキセントリックな姿に格好よさを感じるのだが。子供に理系科目に興味を持ってもらいたいなら、科学者が活躍するアニメや映画をみせるべきだという意見に私は賛成だ。

それと、この映画は戦間期の日本社会について考えるための良い入口にもなるだろうと思う。たぶん。まず、時代の雰囲気を映像でよく再現しているという点に関しては、この映画に否定的な宮台ですら率直に評価しているくらいだから、誰も文句はないのではないかな。それに、この映画との関連で、戦前の日本における航空力学について解説してくれてる科学史家もいるみたいだし*2。この辺の話は複雑だけど、胸が熱くなる。

Postscript (2013/10/9)

こういうインタビューがあったのに気付いた。

僕が「現実の女の子がまったく描けていませんね」と挑発すれば怒り狂うのも当然の話。現実がどうのこうのじゃなく、むしろ現実では描けないモチーフを描きたいということなんだから。ただ僕としても「けなし言葉」として言った訳じゃない。単に「現実なんてどうでもいいんだよ」という話を引き出したかっただけなのね。 

うーん、こういう観点をもっているなら、『風立ちぬ』に関しても、もっとフェアなコメントを言えたんじゃないかと思うけど。