Skinerrian's blog

論理学・哲学・科学史・社会学などに興味があるので、その方面のことを書きます。更新は不定期。

『おどろきの中国』

おどろきの中国 (講談社現代新書)

おどろきの中国 (講談社現代新書)

昨日ざっと目を通した。アマゾンのレビューがある程度出てくるのを待って何か書こうと思っていたけど、それを待っていたらたぶんこの本の内容を忘れてると思ったので、何か記すことにした。 

鼎談ということもあって、ページ数が多い割にあまり情報を得た気がしないというか、いや情報量は多いのかもしれないけど少し散漫な印象を持った。もちろん、新たに知ったことは幾つもあって、たとえば、個人档案という履歴書というかリファレンス的なシステムの話(pp.170f)にはとても驚かされた。学術的な話でいえば、儒家・法家・道教の依存(?)関係みたいな話も興味深かった(pp.48ff, 105-108)。

著者は三人だけど、宮台氏の発言は他の二人よりもかなり少ないのが残念。彼の発言はだいたいいいポイントを突いてる感じがしたんだけど。それと、彼のプラグマティズム話とか、他の文章で見かけるときは何言ってるのか全然わからなかったのだけど(「内なる光?何それ」とか「エマソン的って言われてどれだけの人がピンとくるんだよ…」とか思ってた)、本書では短いながらも結構イメージをつかめるよう説明してるように思った(pp.200ff)。

本書でいちばんよく喋るのは橋爪氏で、彼は奥さんが中国人ということで相当の中国通。中国語もネイティブレベルだという。このブログでは前に何回か彼のことを皮肉ってるわけだけど、それでも彼の教養の量は確かに凄いとは思う。というか、何でこれだけ勉強してるのに、「公理系」とかの理系用語を適当に使ってしまうのか、正直よくわからない。

日中の歴史問題を論じている第三部は、特に賛否両論だったりするかもしれない。「江戸時代の状況は、中国が先制で、朝鮮がクラスで一番勉強ができる優等生で、日本が、ちょっと勉強が遅れている生徒、という感じ」(p.229)とか、「救国の英雄(水軍の大将の李舜臣ら)が現れて、日本を撃退した」(p.232)といった記述は、ネトウヨ的な人々から失笑を買うかもしれない。全体的に橋爪氏は中国に肩入れしすぎだと思う人も多いのではないか。

とはいえ、満州事変から日中戦争(本書では「日華事変」とも言われてるが)の泥沼に至ってしまった経緯は不可解で、一体どうしてこんな目的と手段を取り違えるような愚行を日本が冒してしまったのかを厳しく検証していくこのパートのスタンスは、たとえネトウヨ的なマインドを持っていようと見習うべきだとは思う。例えば、通州事件とか便衣兵ハーグ陸戦条約違反だとかいった(中国側にも問題があったと言えないでもない)事実が記されていない、といったツッコミを入れて何かを言った気になるべきではないだろう。

今後の中国を問題にしている第四部は、最後のパートだけどいささか物足りない感じ。結局予測できないというかわからないというか。