Skinerrian's blog

論理学・哲学・科学史・社会学などに興味があるので、その方面のことを書きます。更新は不定期。

視覚野

ゼノサーガ エピソードI』には、次のようなやり取りがある*1

  • シオン:アレン君、視覚野の接続状態が悪いみたいなんだけど―
  • アレン:ええと―ああ、MT野のK12ルートに軽度の断絶がありますね。あとV4野全域の相互リンクが遅れているようです。ちょっと待って下さい、今、補正しますから。

このゲームは、ゲーム内に用語集があって、親切にも(?)説明がついている。それによると

  • ペンフィールドマッピング大脳新皮質が関係する各体領域を示す脳内地図のこと。
  • V4野:視覚野の一つ。この部位が両側とも損傷すると、完全な色盲になる。脳には、30あまりの視覚野があるといわれている。
  • MT野:側頭葉MT野の事。この部位に損傷を受けると運動盲―視力は正常だが、運動体(走っている人や車)を連続的な動きとして捉える事が出来ず、ストロボ撮影のような状態―になる。人との会話も転送速度の遅いTV電話のようになるという。

MT野(V5ともいう*2)の説明はちょっとおかしいと思う。MT野は背側経路にあるので、後頭葉頭頂葉の間ではないか*3。これは、おそらく『ゼノサーガ』の脚本担当の人が下敷きにしているラマチャンドラン『脳の中の幽霊』の翻訳をひきずっている*4。『脳の中の幽霊』文庫版p.126には次のようにある。

イングリッドは側頭葉のMT野と呼ばれる領域に両側性の損傷があった。

原文は次のようだ。

Ingrid had bilateral damage to an area of her brain called the middle temporal (MT) area.

"middle temporal"を「側頭葉」と訳したのだと思われる。側頭葉はtemporal lobeだからそうしたのだろうか。でも構文としては明らかにmiddle temporal areaを略してMT areaなのだから、こう訳すべきではない。なお、英辞郎を調べたところmiddle temporal areaの訳は「内側側頭部」となっていた。

*1: http://www.geocities.co.jp/Playtown-Rook/8062/words_saga/1.html

*2:この領域のニューロンが視覚刺激の運動方向に選択性を示すことは、オルマンとゼキが独立に発見し、オルマンがMTと呼び、ゼキがV5と呼んだので二つの名前をもつ。藤田『見るとはどういうことか』p.113

*3:まぼろしの腕

*4:MT野の説明が『脳の中の幽霊』とほぼ同じなので、この推測には自信がある。