Skinerrian's blog

論理学・哲学・科学史・社会学などに興味があるので、その方面のことを書きます。更新は不定期。

三値論理

ウカシェーヴィチの三値論理L3では演繹定理は成り立たないようだ。例えば

  • A∧¬A ├ B

はなりたつが

  • ├ (A∧¬A)→B

は成り立たない。Aに真理値#を割り当て、Bに真理値Fを割り当てると反例になる*1

A→(B→A)と[A→(B→C)]→[(A→B)→(A→C)]があれば、演繹定理を導くのに十分なので、どちらかがL3では成り立たないはずである。実際、2つ目はL3ではトートロジーではない。AとBに#を割り当てて、CにFを割り当てると反例。

三値論理L3には、これ以外にも古典論理には見られない性質が沢山ある。まず排中律が成り立たないこと。この点、三値論理は直観主義論理と共通する。しかし、直観主義では古典論理と同様に矛盾律¬(A∧¬A)が成り立つのに対し、三値論理では(A∧¬A)すら充足可能である。また

縮約(contraction)
[A→(A→B)]→(A→B)

が成り立たないというのも面白い。縮約規則を持たない論理学は三値論理が歴史上初めてだという。

縮約規則が成り立たないというのは重要な特徴である。これの眼目は、ラッセルのパラドクスへの対処にある。A≡¬Aから矛盾を導出するには縮約規則が必要になるからだ。
残念ながら、三値論理ではラッセル・パラドクスの変種に対処できないことが後で判明してしまう。けれども、縮約規則を取り除くという発想自体はそのあとも生き残り続けている。BCK論理[LJから縮約規則を取り除く]やグリシン論理[LKから縮約規則を取り除く]などが具体例となる。縮約規則を取り除いたこの種の論理の研究者は、縮約を除くことでパラドクスが生じるのを避けつつ、それでも証明能力ができるだけ弱くならないようにすることで、数学の基礎のオルタナティブを提案しようとしてるのだと思う。

*1:妥当な推論が保存すべき指示値(designated value)は、真のみとする。