アヘンを服用するとなぜ眠くなるのかという疑問に、それはアヘンに催眠力が備わっているからだ、と言っても何も説明したことになっていない、という話がある。出典はモリエールの『病は気から』という戯曲らしいが、この話の社会的な背景は次のようなものらしい*1。
18世紀まで、医者(内科医?)にかかる人は病気の原因について理解できなかった。医者はよくわからない専門用語をしゃべることで評判が悪く、でたらめでつじつまがあわなかった。パラケルススのような改革者が現れたこともあったが、他に代案がなかった。
そこでモリエールだが、彼は肺結核にかかって、おそらく多くの医者にかかっていたに違いない。彼は医者の尊大さと無能ぶりを良く知っていた。先ほど挙げた催眠力の話も、小難しい言葉を使いやがって何も説明してないじゃないか、という恨みがこもっているということだろうか。ちなみに『病は気から』の冒頭にはこうある。
お医者さま、あなたの知識はまるで幻
ばかげた治療に、むちゃくちゃな指示
御大層なラテン語では、病気はまったく治りませぬ
むかつくようなこの思いを、わたしは耐えねばなりませぬ
この悲しみの中、確かなことはただ一つ
お医者様、あなたの知識はばかげてる
*1:ブルモア『うつは炎症でおきる』4章