英国観念論の哲学者として有名なジョージ・バークリーは、晩年、タール水なるものを世の中に広めようとした。タール水とは、松材を乾留してとるタールと水からつくられる水溶液で、アメリカの民間療法によれば、ほとんどすべての病に効くという。多少の殺菌作用があるらしいが、いまでは使われていない*1。
バークリーはどういうわけか、タール水に夢中になり、『サイリス』という著作でタール水の効用を哲学的に擁護しようとしたらしい。ちなみに、題名のSirisはナイル川の別名であり、ギリシャ語では連鎖を意味する。「タール水の効能は、ナイル川のように秘密の隠された源から流れ出し、無数の水路へと分岐して、いたるところに健康と安らぎをもたらす」*2。
私はこのマイナーな著作を、藤沢『プラトンの哲学』で引用されている文章から知った。藤沢によると、バークリーはプラトンのイデア論について次のように書いた。
アリストテレスとその徒たちは、プラトンのイデアを奇怪な仕方で表示したし、またプラトン自身の学派にも、イデアについてきわめて奇妙なことを語った人たちがいる。しかし、もしかの哲学者(プラトン)が、ただ読まれるだけでなく注意深く研究されるならば、そしてプラトンが彼自身の解釈者とされるならば、私は信じる、いま彼に向けられている偏見はすぐにもなくなってしまうだろうと。p.18
バークリーがここまでプラトンを賞賛しているというのは、かなり意外な気がする。