Skinerrian's blog

論理学・哲学・科学史・社会学などに興味があるので、その方面のことを書きます。更新は不定期。

フロイト『続・精神分析入門講義』

言語哲学大全』で推薦されている論理学の入門書、Wilfrid Hodges, Logic で、演繹的に妥当な推論の例として、次のような文章が紹介されている。

Criticisms which stem from some psychological need of those making them don't deserve a rational answer. When people complain that psychoanalysis makes wild and arbitrary assertions about infantile sexuality, this criticism stems from certain psychological needs of these people. Therefore the criticism that psychoanalysis makes wild and arbitrary assertions about infantile sexuality doesn't deserve a rational answer.

著者によれば、この文章は『続・精神分析入門講義』講義34からの引用だそうだ。気になったので、図書館で岩波の『フロイト全集』21巻を調べてみたが、見つからなかった…。見落としだろうか。しかし、本当にフロイトがこんなにすっきりした論証をしているのか、やや疑問ではある。この文章をグーグル検索にかけたが、Hodgesの本から孫引きしてるものもあったし。

代わりに、ちょっと面白い箇所を見つけた。

申し上げたいのは、私は、私たちの治療成果がルルドのそれに匹敵するなどとは思っていないということです。聖母の奇跡を信じている人の方が、無意識なものの存在を信じている人よりもはるかに多いのです*1

精神分析ルルドの泉ほどの効き目もない、とフロイト自身が認めている箇所として有名だが*2、実際に原典でチェックしたのは初めてだ*3

この講義34というのは「釈明・応用・治療姿勢」というタイトルがついていて、これまで精神分析にぶつけられてきた批判に応答する、という形になっている。統計なんて意味ない、患者からはたくさんの礼状がきてる、精神分析プラシーボ効果を超えないが他の治療法よりはマシ、とかいってる。とりあえず、プラシーボを超えないなら疑似科学と区別つかないのでは、と思った。

*1:フロイト全集』21巻p.164f

*2:cf. デーゲン『フロイト先生のウソ』p.46

*3:ルルドの泉」伝説については、『欧米社会の集団妄想とカルト症候群』という本が参考になった