Skinerrian's blog

論理学・哲学・科学史・社会学などに興味があるので、その方面のことを書きます。更新は不定期。

『ローカル女子の遠吠え』でいく静岡旅行

『ローカル女子の遠吠え』という四コマギャグマンガがある。このマンガは静岡のローカルネタを(自虐も含みながら*1)簡潔に、そして県外の人間にもわかりやすく伝えていて、とても面白い。女の子が可愛いだけのありきたりな四コマ漫画とは一線を画す、傑作だと思う(言い過ぎか?)。

私(東京在住)はこれまで伊豆を除くと静岡をほとんど旅行したことがなかったのだが、いい機会だと思って、このマンガをネタにして静岡を三泊四日ほど旅行してみた。適当にプランを組んだにしては結構楽しかった。

備忘録を兼ねたメモを以下に書いたので、興味を持った方は参考までにどうぞ。「委員長」(りん子さん)に引率されているような気分になるかも(ならない)。ネタバレを含むので未読の方は自己責任で。

一日目

午前。手始めに、雲春さんとナナフシさんが立ち寄った目黒の浅間神社を訪ねる。神泉駅から10分ほど歩いた場所に位置している。神泉は渋谷から井頭線で一駅なので普段なら電車を使うまでもない距離だが、この後たくさん歩くことになるので省エネ。

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狭い間隔でいま何合目なのか書いてあるのが笑える。この日の午前中は曇り空だったが、天気が良くても周りがビルで囲まれてるので富士山は見えないと思う。

神奈川を飛ばしていきなり静岡に飛ぶのは少しもったいない気がしたので、午後は大船~江の島~藤沢あたりで去年末に放映されたアニメ「Just Because」の聖地巡礼をしてみた。これはこれで面白かったが、今回の記事とは全く関係ないので割愛。

この日のうちに静岡に入っておきたかったので、東海道線を乗り継いで富士駅までやってきた。駅から歩いて7分程度のところにある中華料理のチェーン店、五味八珍に入店して遅めの夕食。

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マンガでは「四味八珍」となってる。

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ここでは浜松餃子を食す。 

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餃子は一皿に12個となかなかのボリューム。

二日目

手始めに、(マンガでは描かれてないが)名所として知られる白糸の滝を見学。身延線で富士から富士宮へ(二つを混同してはいけない)、そして富士急行バスで富士宮駅から25分ほど。 

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帰りのバスは、富士宮駅ではなく浅間大社で降りる。ここから見る富士山はかなり素晴らしい。

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作中では、富士宮在住の水馬さんが、富士宮からだと富士山がよく見えるでしょうと聞かれて「見えるというかそこにあるので…」と答えてる。マンガの中ではこれは富士山過激派の台詞という扱いなのだが、実際に見てみると、これだけデカデカとそびえたってるものに対して「見える」という言い方をするのは自然言語の使い方として変なのではないか、という感覚は全く理解できないわけではないな、とちょっと思った。野矢先生とかなら何ておっしゃるかな…。

しかし、浅間大社に来た最大の目的は富士山ではなく絵馬である。ここはりん子さんに倣って私も「自分でどうにかします」と書くべきであろう。神様を冒涜してる気がしないでもないけど…。ともあれ、実際にそう書いて奉納してきた。筆跡を晒すのは恥ずかしいのでここには写真を貼らないでおく。

お昼はとうぜん富士宮やきそば

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浅間大社入口の目の前に「富士宮やきそば学会」のショップがあるので、そこで昼食を済ませた。というか、泊まったホテルでは朝食のバイキングが付いていたのだが、そこでも富士宮やきそばのコーナーがあって驚いた。本当にソウルフードなのか…。

午後。富士駅に戻り、東海道線に乗り換え。富士川を越えるといよいよ静岡中部。まず、富士山の眺望ポイントとして有名な薩埵峠を目指す(マンガでは描かれてない)。由比駅と興津(おきつ)駅の間をとにかく歩く。道中の大半は正直あまり楽しくなかったが、薩埵峠からの眺めは圧巻。この一瞬のためだけでも苦労する価値はある。

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快晴ではあるのだが、春霞で富士山はかすんで見える。さすがに肉眼だと写真よりもくっきり見えるが、それでも霞んで見える。歌川広重の浮世絵のようにはいかない。冬に来るべきか。

道路が完全に海沿いなので台風が来ると高波で通行止めになるという話(3巻p.21)もうなづける。

この日は清水に宿泊。清水駅にはちびまる子ちゃんのパネルがいくつか置かれていた。そういえば、瀬戸口先生もラジオ番組に出演されたときに静岡関連のマンガとしては「ちびまる子ちゃん」がレジェンドだとおっしゃっていた*2

三日目

午前。まずは言わずと知れた名所、三保の松原に向かう。マンガでは、山梨県の人から富士山の名所ポイントは山梨側が多いんですよと言われて、りん子さんが「三保の松原からの眺めもいいものですよ」と反論してたように思う。もう少し読み進めると、東京からの二人組が観光してる。

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三保の松原は写真を撮るのが難しい。工事中のクレーンや消波ブロックが置かれてるほか、春霞のせいで由比より富士山が一層かすんでいて、私の腕前+スマホカメラではきれいに撮れなかった。

ところで、三保の松原が遺産登録されるにあたっては、歌川広重の浮世絵が決めてになったという話だ。由比には広重美術館があることに気づいたので、東海道線を逆走してみた。ところが、この美術館は駅から2キロも離れていて徒歩にはきつい(トホホ)。

なお、由比は桜えびでも有名なので、美術館に向かう前に、かき揚げを昼食にしてみた。マンガではりん子さんが上手に(?)揚げていた。 

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続いて、静岡市。これまで停まってきた駅はどれも小さな駅だったが、それと比べると静岡駅は圧倒的に洗練されている印象。のぞみは停まらないけど。

どこに行こうか迷ったが、とりあえず登呂遺跡を見学することにした。静岡駅南口からバスで7分ほど進み、5分ほど歩く。

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マンガでは3巻のあとがきに、弥生人コスプレをしてるりん子さんのカットがある。 

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この服(貫頭衣)のデザインは、実際に遺跡から麻布が出土していることと、かの『魏志倭人伝』に関連する記述があることから推測されたものらしい。資料館の係のお姉さんが親切にいろいろ教えてくれたので、これ幸いと質問攻めにしてしまった…。訪問する時間がやや遅かったこともあって、やや消化不良のまま閉館時間になったのは残念。

夕食…には少し早い時間だったので、静岡駅の北側を散策。駿府銀座跡を発見*3

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「銀座」のルーツは以下のようだ。

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この話、りん子さんによれば「常識」だそうだ。私は一応知ってたけど、そんなに有名な話なのだろうか…意外と知られてない気がする。京都の伏見銀座跡は以前行ったことがあるので、その写真も貼っておこう。 

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夕食は青葉横丁で静岡おでんを食す。カウンターだけの小さな店が多いので入るのに勇気が要るが、常連さんたちは一見の客にも優しくて、話の環に入ることができた。雲春さんじゃないけど、もし静岡で働くことになったら、たぶんこういうお店に入り浸ると思う。

四日目

そろそろ疲れが溜まってきた。午前中、手始めに駿府城を見学。まず、県庁の別館ビル21階にある展望台(無料)から城の全体像を俯瞰。 

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見事にほとんど何もない…。でも公園としてはこれで問題ないように思う。散歩していて気持ちがいい。夜も利用できるのがいい。天守閣のあたりで再建工事をやってるけど、googlemapのコメント欄を見ると市民の間ではやや不評のようだ…。

人気のハンバーグ屋さわやか。

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静岡を中心に展開していて、東京にはないチェーン店らしい。マンガでは「おだやか」という店名になってる。 

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げんこつハンバーグと、紅ほっぺを使ったデザートをいただいた。五味八珍もこの店も共にコスパがいい。しかし、さわやかはかなり混んでいて面食らった。そういえば、雲春さんも一時間待ちはザラだと言ってたっけ*4

午後は大御所様(徳川家康)の遺体が埋葬されたという久能山東照宮へ。

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参拝ルートは二つあるが、ここはりん子さんに倣って久能山下から1159段の石段を登る正規ルートをとるべきだろう。実際登ってみたが、それほど大変ではない。りん子さんが途中で息切れしたのは、登りながらずっと解説してたからではないかと推測する。

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博物館が隣にある(撮影禁止)。展示の目玉はスペイン国王フェリペ2世が家康にプレゼントした洋時計。16世紀の時計が部品までほぼ丸ごと残っている、というのは極めて希少という話である。

ロープウェイを使って日本平から帰ろうかとも考えたが、マンガでは久能山東照宮からのいちご狩りと言っていたので、やはり帰りも久能山下から戻るべきなのだろう。しかし、ゴンドラには乗ってみたいので、日本平からの眺めを見るためだけに乗ってみる。行きと帰りで添乗員さんの解説が異なっててよかった。

日没にはまだ時間があったが、満足したので東京に戻る。欲を言えば、もう一日使って寸又峡の夢の吊り橋(以下参照)も見に行きたかったけど、時間と予算の都合であきらめた。

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家に帰るまでが遠足…ということで、東京駅で夕食用に洋食やのまかないライス(メンチカツ)を購入。

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完走した感想

写真からも伝わるかもしれないが、天候にかなり恵まれた四日間だった。何も対策しなかったので、日焼けで顔が痛い…。

冷静に考えると割と定番の場所ばかり廻っているのだが、『ローカル女子の遠吠え』というマンガを間に挟んだことで、何か尋常ではない旅をしたような気分を味わえた。おでん屋で話した常連のおっさんから「静岡そんなに見るとこある?」と聞かれたけど、普通にいろいろあるんじゃなかろうか。マンガで描かれてるけど今回いけなかった場所としては、三島の吊り橋とか伊豆の河津桜とか寸又峡などがある。なお、レンタカーを使わず一切の交通手段を電車とバスに頼っていた割にはそこそこスムーズに移動できたのは本数がそれなりに充実してるからで、それを考えると、静岡は「田舎」というには十分発展していると言っていい気がした。

ところで、今回は記事の都合上『ローカル女子の遠吠え』を静岡ローカルネタを提供してるギャグマンガとして紹介したけど、このマンガは他にも色々な読み方ができる。例えば、タイトルからも連想されるように、作中の主要人物は「何らかの意味で」負け犬である。りん子さんは東京でキャリア積むことができず、蜂須賀さんはブラック企業でつぶされ、水馬さんはモデルとして鳴かず飛ばずでUターンしてるし、雲春さんは上司への態度が原因で左遷されてるし、秋津さんは出羽守にすらなれないお局さんだし…。でもそういう境遇に必ずしも悲観することはないし、変に卑屈にならなくても負け犬には負け犬なりの充実した生き方ができる。…そんなわけで、このマンガは世の負け犬へのエールという風にも読める(と思う)。

*1:「しぞーか愛が止まらない、のぞみも停まらない」とか。

*2:3月6日放送のSBSラジオ「聴くディラン」より。

*3:私の勘違いかもしれないが、googlemapの位置は不正確だと思う。

*4:静岡県民「さわやかのハンバーグ食ってみろ!」:ハムスター速報