Skinerrian's blog

論理学・哲学・科学史・社会学などに興味があるので、その方面のことを書きます。更新は不定期。

記述理論(3)

ラッセルの「表示について」は表示句を消去することに全力を注いでいる論文で、"is an F" のような述定表現すら例外にせず、"is F'" のような代用表現に置き換えようとしている、ということを以前このブログで書いたことがある。いささか病的な雰囲気を感じさせるところだ。

ところで、この論文はかなりウィットに富んでいることでも知られる。イギリス王室について予備知識をもつことで、より楽しんで読むことができるかもしれない。

有名な例文として「現在のフランス王ははげである」がある。この例文がどこから来たのか、論文を読んでしばらくすると忘れてしまいがちだが、もともと、この例文に先立って「現在のイギリス王ははげである」という例文が検討されている。当時の王はエドワード7世で、彼ははげだった(wikipediaの写真を参照)。この例文はエドワード7世についての文であるように見える。

で、この例文と形のうえでそっくりな「現在のフランス王ははげである」は一体誰についての文なんですかねぇ…というのがラッセルのパズルだった。このパズルを解く手段を与えるのが記述理論ということになる。パズルに関してラッセルは、論理学の理論はパズルを解く能力によってテストされうる、パズルは物理学における実験と同じ効果をもたらしてくれる、というようなことを論文のなかで述べている。

「表示について」で検討されるパズルは他にもある。その一つは、ジョージ4世の好奇心と呼ばれる。問題になる例文は「ジョージ4世はスコットが『ウェイヴァリー』の著者なのか知りたがった」である。スコット=『ウェイヴァリー』の著者なので、ジョージ4世は同一律を疑ったことにならないだろうか。ラッセルはヨーロッパ第一の紳士が同一律を疑うなんて信じられない、と書いている。これは皮肉であり、王子時代のジョージ4世は札付きのワルで知られていたらしい。

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