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Skinerrian's blog

論理学・哲学・科学史・社会学などに興味があるので、その方面のことを書きます。更新は不定期。

日本史の誕生

東洋史の有名な研究者の本を読んでみた。

日本史の誕生―千三百年前の外圧が日本を作った (ちくま文庫)

日本史の誕生―千三百年前の外圧が日本を作った (ちくま文庫)

 

岡田氏の本を読むのははじめてだが、「岡田史観」などと言われるくらい独特な歴史観の持ち主だということは、ざっと読むだけでもよく分かった。例えば、邪馬台国の位置に関して、畿内説でも九州説でもなく瀬戸内海沿岸だと主張しているとか、「日出処の天子」は推古天皇ではなくそもそも推古天皇は存在自体うたがわしいとか、『古事記偽書説とか。私は個人的に日本史が苦手なのだが、これらはたぶん通説とは違うだろうなと思う。邪馬台国畿内だろうし、推古天皇は実在しただろうし、『古事記』は本物なんだろう、と漠然と思っていたし、本書を一読しても意見を変える必要はあまり感じなかった。たしかに『古事記』序文は胡散臭いなとは思ったけど、でも本文まではどうだろう。まぁ素人が判断することではないが。

意見を変える必要をあまり感じなかった理由の一つは、中国側の資料をかなり信用しているように思えたことがある。たしかに、『魏書』に「西域伝」がないことの謎解きと、その結果として「倭人伝」の地理的記述には信ぴょう性がないことを証明するところなどはかなり読ませる部分であって感動したのだが、その一方で、推古の非実在性を主張するところで参照している『隋書』については中国側が嘘を書く理由などないとかいって、男王に会ったという記録をあっさり受け入れている。うーん、でも「明史日本伝」とかの記述のデタラメっぷりをみると、嘘を書く理由があろうがなかろうが、中国側の異国人に関する記述ってかなり歪んでるんじゃ…。ちなみに「明史日本伝」のでたらめな記述として、岡田は次の箇所を引用している。

日本にはもと王があって、その臣下では関白というのが一番えらかった。当時、関白だったのは山城守の信長であって、ある日、猟に出たところが木の下に寝ているやつがある。びっくりして飛び起きたところをつかまえて問いただすと、自分は平秀吉といって、薩摩の国の人の下男だという。すばしっこくて口が上手いので、信長に気に入られて馬飼いになり、木下という名をつけてもらった。…信長の参謀の阿奇支というのが落ち度があったので、信長は秀吉に命じて軍隊をひきいて攻めさせた。ところが突然、信長は家来の明智に殺された。秀吉はちょうど阿奇支を攻め滅ぼしたばかりだったが。変事を聞いて武将の行長らとともに、勝った勢いで軍隊をひきいて帰り、明智を滅ぼした。p.33 

 「信長の参謀の阿奇支」って誰だYO!

あと、天皇号の成立時期に関して、本書は天武朝あたりと推測しているが、以前このブログで紹介した東島・與那覇『日本の起源』は推古朝の時期という立場をとっている*1中宮寺が所蔵する「天寿国繍帳」という資料に天皇号がでてくるのが根拠とされるのだが、問題はこれが本当に推古時代の資料かどうかである。岡田はそんなの国史学界では昔から偽物だと言われているだろと一蹴しているが、はてさて。

ところで、こうした個別の歴史的事実に関する主張もさることながら、個人的には岡田の歴史観というか方法論にもあまり好きになれないところがある。考古学や比較言語学は歴史の代用にはならないとか、発掘された遺物に文字が書いてあってしかもそれが政治と関係なければ歴史の材料にならない、とか。歴史の対象を政治に限定しすぎるがゆえの言語観念論っぽい感じがあって、どうも自分とは趣味が合わない。

とまぁ、かなり批判的に(箇所によっては敵意をもって)読んだのだが、クリアに分かりやすく書かれている本だし、はっとさせられる箇所もあるので、決して悪い本ではないと思う。

*1:東大系の研究者は推古朝説をおす傾向にあるようだ。http://publications.nichibun.ac.jp/region/d/NSH/series/nike/2007-05-21/s001/s018/pdf/article.pdf