Skinerrian's blog

論理学・哲学・科学史・社会学などに興味があるので、その方面のことを書きます。更新は不定期。

シンデレラ

中沢新一の『人類最古の哲学』という本がある。この本はシンデレラのさまざまな異文について結構詳しく取り上げている。

「シンデレラ」には確認できているだけで450以上の異文があるらしい。子供向けの上品な形態もあれば、グリム兄弟の「灰かぶりの少女」のように残酷なものもある。

「シンデレラ」のお話のルーツはとても古くて、南方熊楠は、9世紀の中国(唐)の文献に、シンデレラの異文があることを発見したらしい。中沢はこの異文について「いままでのところ発見されている世界最古のシンデレラ物語」(p.131f)と書いているけど、wikipediaをみたら、ストラボンが紀元前1世紀に記録した異文があるらしいな…。

「シンデレラ」に限った話ではないが、なぜ民話や神話には多くの異文が世界中に散らばっているのか。これはとても興味深い。それぞれの地域で独立に発生したのか、それとも、どこか一か所で誰かが思いついた話が、世界中に伝播したのか。中沢は伝播説を否定している。アメリカ大陸の先住民にも伝わっている伝承なので、伝播があったとは思えないとか。中沢の仮説は、大雑把に言えば、伝承の起源は石器時代にまでさかのぼり、伝承の原型は石器時代の人類の経験・世界観を作られた、といったところだと思う(p.42f)。まぁ、そうなのかもしれませんな。

やや疑問なのは、中沢がこの考え方を南方熊楠にまで帰属していることだ。熊楠の論文を読んだわけではないけど、彼の論文ってそういう趣旨なのだろうか?坪内逍遥ユリシーズ=百合若大臣説を参照して、これは伝説が西から東に伝播した例、だけど、東から西に伝播した伝説もあって、それがシンデレラ、という趣旨の論文だと思っていたんだが…*1。つまり、伝播説を支持していたんではないかと。井上章一が丁寧に論じているように*2南方熊楠がシンデレラ論文を書いた時期は、いろんなものの伝播説が流行っていたと思うんだ。法隆寺のエンタシスとか、天守閣とか、百合若大臣とか