Skinerrian's blog

論理学・哲学・科学史・社会学などに興味があるので、その方面のことを書きます。更新は不定期。

事実と事態

本屋の中でぶらついていたら、こういう本が目に留まった。

見覚えのあるような絵柄…とか思ってたら、イラストは横槍メンゴ先生。『クズの本懐』とか『君は淫らな僕の女王』の作者さんですね!

著者の名前は聞いたことがなかったので経歴を見たところ、竹田青嗣の薫陶を受けて…とか書いてあったので、さっそく嫌な予感。試しにウィトゲンシュタイン『論考』の項目をパラ見してみたが、うーん、という感じ。買わなかったので本が手元になくて正確に引用できないのがアレだけど、例えばですね。竹田青嗣もそうだったけど、事実と事態を適切に区別できてなさそうなんだよなぁ。なんで事実を事態の集まりとか言っちゃうかな。『論考』の命題2って

起きていること、すなわち事実とは、諸事態の成立である。 

なわけで*1、成立している事態が事実だろう、と。世界は事実の集まり(命題1以下)だから、世界は成立している事態の集まり、とは言えるだろうけど、事実は事態の集まりじゃない。とりあえず、野矢茂樹ウィトゲンシュタイン論理哲学論考』を読む』でも読んで出直してほしい。

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Postscript (2016/8/7)

朝日新聞の読書欄で本書が紹介されているのを見かけた。5万3千部も売れてるんだそうだ。うへぇ…。評者の佐々木俊尚によれば「従来、日本における哲学は狭いアカデミズムの中に引きこもってしまっており、独特の難解な用語の読解のむずかしさも相まって、多くの人には届いていなかった。そういう状況の中で、本書がよく読まれているのは日本社会の将来の期待に満ち溢れていてまことに喜ばしい」。難解な用語が嫌なのに哲学に興味があるなら、こんな本じゃなくて八木沢敬先生の『分析哲学入門』あたりを読めばいいのに。