Skinerrian's blog

論理学・哲学・科学史・社会学などに興味があるので、その方面のことを書きます。更新は不定期。

フランケンシュタイン

メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』を読んだ。SFというには、人造人間を作る過程がほとんど記述されてないので肩透かしを食らった感じだが、19歳でこれを書いたというのは率直に言って本当にすごいと思う。

この手の古い作品にはよくある注意書きで、差別的な表現があるけど作品自体の芸術性にかんがみてそのままにしてある、みたいなことが書かれてる。最初、どの辺が差別的なんだろう?と思ったのだが、例えば、次のような箇所がそうだろうか。

この本[註:ヴォルネ『諸帝国の滅亡』]のおかげで、おれは大雑把なものではあったが、歴史のあらましを知り、今の世界にはいくつか、帝国というものが存在していることを知った。さらにこの地上にはさまざまな国があることを知り、各国の風俗や政治の形態や宗教についても理解できるようになった。アジア人は総じて怠惰であること、ギリシア人には途方もない天分とすぐれて活発な精神が備わっていたこと…*1 

フランケンシュタイン』が書かれた19世紀はこんな風に思われてたというわけだ。これに関しては、いくらか補足的なことを付け加える用意が私にはある。

スティーブン・グールドによると*2、19世紀半ばにダウン症を発見したダウン博士は、この症状を「蒙古症」と呼んだ。ダウン症の人の身体的特徴にアジア人っぽいところがあると思ったらしい。彼はヘッケルの個体発生は系統発生を反復するという考えをまじめに受け取っており、しかも、白人はアジア人よりも優れていると信じていたので、白人の胎児が途中で発育停止すると、下等なアジア人みたいになる、と説明しようとしたわけである。

アジア人の一人として、さすがにこんなバリバリの偏見には辟易させられる。なお、今日ではダウン症は21番目の染色体が余分にあることで生じる遺伝性の病とされている。

*1:新潮文庫版p.236

*2:『パンダの親指』15章