私は、丸激で薦められている『ゴーマニズム宣言EXTRA パトリなきナショナリズム』(2007)とかいう本を読むまで小林よしのりの政治的な作品を読んだことがなかった。この本は小林の従来の主張を知らない人間にとってはとにかく読みづらくて、議論の筋も結論を私はきちんと追うことができなかった。宮台真司はこの本を丸激の中で褒めていたと思うのだが、理解できない。そもそも10年以上前まで、宮台真司と小林よしのりはお互いをかなり手ひどく罵倒していた気がするのだが、この数年彼らはずいぶんと仲良くやっているように見える。やはり、どうなっているのか理解に苦しむ。
このおっさんはどうやら大東亜戦争マンセーという立場みたいだし、AKBとかにも入れ込んでいて意味不明だし終わってると思っていたのだが、どうやら初期の頃はそれなりに評価できる表現者だったらしいということも分かってきた。エタ風さん(@juns76)の過去のツイートを参考にして論点を整理すると
- ネトウヨのルーツみたいに言われてるが、初期の頃は若者のみに支持されていた。ブレーンには呉智英や浅羽通明、大月隆寛がいた。
- 初期の小林よしのりが言ってることは、クソフェミ頭おかしいとか、言葉狩りやめようとか、今右翼じゃなくても普通に言ってるようなことを言ってるに過ぎない。
- 薬害エイズ問題で共産党と対立。自分が扇動した若者が民青にオルグされてる現実を目の当たりにして、共産党と全面戦争覚悟で『脱正義論』(1996)を描いた。
- 薬害エイズ問題の後、『戦争論』(1998)を書いて大東亜戦争マンセー路線に走ったら戦中世代の老人に評価されるようになった。
- 呉智英は父親の介護で郷里に帰り、大月隆寛とは喧嘩別れ。 もともと、本人がそれほど知識量のある人ではないため、アシスタントだけがブレーンの今の状況は致命的。
とのことである。実際『脱正義論』は上で取り上げた『パトリなきナショナリズム』よりはるかに読みやすく、面白かった。竹田青嗣・橋爪大三郎との鼎談本『ゴーマニズム思想講座』(1997)も悪くない。橋爪大三郎がしっかりしている。
『戦争論』に対する批判としては、宮崎哲弥『新世紀の美徳』(2000)所収の最後の二つのエッセイがよかった。ちなみに、宮崎は次のように述べている。
おそらく「新しい歴史教科書をつくる会」荷担をきっかけに、小林は保守知識人との交際の中で一方的に感化され、「洗脳」されていったのだろう。[…]彼は本当に自分で考えて居るのだろうか。少なくともごく初期には、その姿勢が見て取れた。拙くはあっても、いかなる権威にも服することなく、自分自身の思考と直覚を断固貫くのだという気概が漲っていた。その率直さ、清新さに私たちは魅了されたのである。しかし、部落差別、差別語自主規制、オウム、HIV薬害と、現実の状況と深く関わるようになって、彼の思考の自在性は次第に失われていく。『戦争論』にいたっては、ほとんど全編が他人の思想の模倣と他人の書物や談話の引用によって成り立っているといっても決して誤りではない。p.356
そして、この引用の後に参照される水木しげるの『戦争論』へのコメントはとても重い。