熱力学の知識とかあったらいいなと以前から漠然と思っていたのだが、特に努力することもなくここまで来てしまった。まぁ啓蒙書の類はちらっと読んだことはあったけど。この本もその一つ。そういえば、このブログでも竹内氏にはいちど言及したことがあったかな。
熱とはなんだろう―温度・エントロピー・ブラックホール… (ブルーバックス)
- 作者: 竹内薫
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2002/11/20
- メディア: 新書
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amazonのレビューを見ると評価が割れていて、分り易いという人が結構いるけど、他方で文系にはきついとか、話があちこちに飛ぶので筋が追えないといった意見もある。私自身はというと、やっぱり分りづらかったなぁ。計算機科学の例を最初にもってきたり、ブラックホールの話をしてみたりと、応用的な話題を詰め込みたいという著者の意図は分かるけど、もっとオーソドックスな話を数式とか端折らずに説明してくれればよかったのに、と思う。
議論の筋もたしかに追いづらい。例えば、自由膨張は断熱過程なのになぜエントロピーが増えるのか。p.53ではこの疑問は後で解決されると言うけど、どこでこの疑問に答えているのか分からなかった。統計力学っぽいミクロなレベルでの説明はしてるのかもしれないけど、他方で、熱力学的なエントロピーの変化は
- ΔS = dQ/T
で計算されるとも言っていて(p.89)、こちらで考える場合には、自由膨張でなぜエントロピーが増えることになるのか、はっきり答えが示されているとは思えなかった。うる憶えだけど、たしか、上の等式は可逆過程でしか成り立たないはずで、自由膨張のような不可逆過程にはストレートに適用できないのではなかったっけ。つまり、不可逆過程の場合は、
- ΔS > dQ/T
になる。
それから「エントロピーは「取り返しのつかない」ことをすると増えるらしい」(p.56)という標語が掲げられているけど、これも少しミスリーディングのような。実際には、可逆過程であってもエントロピーは増える可能性は否定されていない。例えば、等温膨張ではエントロピーが増えるとか言ってるし(p.53)。
という感じで、この本を使って細かい理解を深めるのはなかなか難しい。たしかに、読んでいてハッとするような説明もあったといえばあったのだけど。全体としていえば、この本は文系向けの本ではないし、熱力学についてちょっと知りたい人が最初に手を出してよい本でもない、というのが私の感想だ。