Skinerrian's blog

論理学・哲学・科学史・社会学などに興味があるので、その方面のことを書きます。更新は不定期。

理性の暴走?

スティーブン・ピンカーの近著 The Better Angels of Our Nature のレビューを読んだ。近著といっても、2011年の本だけど。

原著を読んだわけではないので、以下はこのレビューを読んだ限りでの単なる印象に過ぎないことを断っておく。さて、紹介者によると、この本では「ヒトの歴史における暴力減少傾向という現象を扱っている」という。とすると

  • 本当に歴史を通じて暴力は減少しているのか?
  • 本当に減少しているとすれば、どういうメカニズムで?

という疑問に対する答えがあるのだろうと期待できる。レビューを読むだけでも、ピンカーの調査が超人的だということがよく分かる・・・。この人が書く啓蒙書はどれも超人的だから、今更驚かないけど。

個人的に面白そうだと思ったのは、

「20世紀は最悪の世紀だったか」という問題が取り上げられている.ヒトの歴史を通じて暴力が減少してきたというなら二つの世界大戦も含め戦争の状況も説明できなければならない

という箇所。ピンカーは「理性の向上」に全幅の[?]信頼を置いていて、この点はフランクフルト学派の批判理論と対照的なのではないかと思われる。宮台真司が言うには

ヒトは理性を信頼しがちだが、理性は暴走するのだ、と。ファシズムを生み出したのは、情緒や感情ではなく、合理的計算の暴走だというのですね。普通、みなさんは、ヒトが不合理なものに惹かれがちだからファシズムが起こるのだと思いがちです。アドルノはそうした通念への批判から出発したわけです*1

しかし、ピンカーによれば、

戦争による死者を取り上げ,それを当時の世界人口との割合でプロットしていくと第二次世界大戦は確かに一つの特異点ではあるが,特異点としては特別に大きいわけではないことがわかるのだ.(第一次世界大戦はベスト10から漏れてしまう) そして全体の傾向としてはベースラインが減少で,時々生じる大きな被害をもたらす戦争を冪状分布する事象として見れば合理的に解釈できる

ということだそうである。「アウシュヴィッツ以後、詩を書くことは野蛮である」という標語はいったい何だったのか。ここにもまた、英米系の学問と大陸系の学問のコントラストを見ることができるのかもしれない。もう少し調べてみたい。暇があれば。

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