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Skinerrian's blog

論理学・哲学・科学史・社会学などに興味があるので、その方面のことを書きます。更新は不定期。

大澤真幸『量子の社会哲学』

大澤真幸

量子の社会哲学 革命は過去を救うと猫が言う

量子の社会哲学 革命は過去を救うと猫が言う

この本の自然数の定義がやばい(ただし、間違ってはいない)という噂を遅まきながら耳にしたので、チェックしてみた。全体の感想としては、この本は、議論の仕方にいろいろ問題はあるが、居酒屋談義のようなものだと思えば、なかなか楽しい本だった。

さて、問題の自然数の定義は p.15 にある。どういう趣旨の定式化になっているかというと

  • 0 = Ø
  • n+1 = {Ø, 0, 1, .., n}

 {Ø, 0, 1, .., n} = {0, 0, 1, .., n} = {0, 1, .., n} なので、実質的にはフォン・ノイマンの定義と同じになる。いまチェックしてみたら、『身体の比較社会学I』p.201f ではこういう定義になっているのに、なぜ変えたし…。

個人的には、この箇所より無理数の話をしているところの方が大いに問題があると思った。こういうことを言っている(p.120)。例えば、√2は、

  • x = 2/x

という風に定義される。これは自己言及的であるから、無理数の導入とは、自己言及性を内部に封じ込んでいる数を導入することで、自己言及性からくる決定不能性を克服することである・・・云々。じゃあ例えば、

  • x = x+x

と定義される0は、無理数なのかしら…。それに自己言及⇒決定不能とかいう条件反射も気になる。

他にもミスリーディングな箇所はたくさんある。周転円を導入したのはプトレマイオスとも読めたり*1、あるいは細かいところだと、「ユークリッド幾何学は、角度の遠近法を前提にしている」(p.345n6)という箇所では、『原論』と『光学』を混同しているかに見える。

Postscript (2014/7/29)

上で紹介したような類のおかしな定義を、名のある文系の先生がやらかすことはよくあるのかもしれない。田島正樹氏は、加法を次のように定義(?)している*2

普通、自然数の領域での関数の計算可能性は、帰納関数とか再帰的定義とか言われるやり方で示される。たとえば加法は、

x+1=φx・・・(1)

x+φy=φ(x+y)・・・(2)(ただし、φxはここではxの次の自然数を指示する。)

この帰納関数を繰り返し適用してすべての自然数についてx+yを与えることができる。

この定義のおかしさは(1)にある。なぜ "x+0 = x" としないのか…。田島氏は、引用した箇所の直後では、乗法の定義もしているが、そこでは0も自然数に含めていることを考慮すると、妙である。もっとも、それ以前に「帰納関数」と「再帰的定義」の用法も、少し奇妙である。これらの2つの等式は、加法という帰納関数を再帰的に定義しているのであろう…。

*1:周転円を導入したのは、一般に、ペルガのアポロニウスだと言われる。

*2:ララビアータ:戸田山氏『哲学入門』(4)自由