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Skinerrian's blog

論理学・哲学・科学史・社会学などに興味があるので、その方面のことを書きます。更新は不定期。

梅原猛の反文明論

昨日の深夜にNHKで放送された「3.11後を生きる君たちへ〜東浩紀 梅原猛に会いにいく〜」を録画して見た。梅原氏の自宅の映像が印象的だった。

東日本大震災から僅か1か月後の2011年4月、原発事故を引き起こした災害を、いち早く「文明災」と定義し、大きく注目された哲学者・梅原猛さん。その後、西洋哲学を徹底的に批判し、日本の伝統思想に立脚した自然と共存する人類共通の哲学の必要性を訴え続けている。震災から1年が過ぎた2012年3月、哲学者・東浩紀さんが京都の梅原さんの自宅を訪ね、新たな哲学、そして若者へのメッセージを聞く*1

冒頭で述べられていることだが、東氏の問題意識はおおよそ以下のようなものだ。

  • 東日本大震災原発事故は1,000年に一度ともいうべき大災害であった。
  • それにも関わらず、言論人たちの言葉は視野が狭く、100年1000年単位で物事を考えることができていないため、その言葉には深みがない。放射能に関わる数字ばかりが踊っている。
  • 1000年単位で日本の思想史を考察してきた梅原氏の見解に耳を傾けてみようではないか。

彼の試みがどのくらい上手くいっているのか、この短い放送時間では分からないけれど、1年前の災害を「文明災」という彼の視点は正直どうなのだろう…。「PがQを引き起こした」という因果関係は反事実的条件法と関連しているので、1年前の災害については、3つの観点から眺めることができる。

  • 天災:地震が起こらなかったら、こういう災害は起きなかった。
  • 人災:東電と保安院がもっと非常時のことを考えていたら、こういう災害は起きなかった。
  • 文明災:そもそも西洋の科学技術がなかったら、こういう災害は起きなかった。

災害の至近要因(トリガー)はまちがいなく巨大地震だが、至近要因を指摘することは大抵はあまり興味深くはない。より遡った遠因にこそ説明力が宿る。でも、だからといって、西洋文明が間違っているという極端な見解は、それはそれであまり興味深いものではないと思われる。遠因を探っていく議論の許容範囲は、せいぜいのところ、東電と保安員の不作為は半世紀以上前に戦争を引き起こした軍部や官僚の退廃と似ている、といった議論あたりまでだと思う。なんとなれば、人間が火を使いこなせなければ、といった反事実条件を考えることもできよう。

梅原氏は、デカルトの普遍数学を自然支配と人間中心主義のための論理だとまで主張しているが、それについては何も言うまい。ただ、1000年単位で私たちの文明社会の持続可能性を考える、ということは、どう考えても必ずしも文明批判を含意しないと思う。例えば、フィンランドの映画『10万年後の安全』は10万年後の将来を考察しているけれど、文明批判ではない。私としては、以下のような意見の方が慎重な意見に思われる。

今の原発事故関連の原因にしても、対応にしても、工学、農学、医療の分野の知見の範囲のものだと思うけど、なんで「科学」を問題にする人が多いのだろうか。ああいう学問は普通は自然科学と呼ばないはず。よくても、その応用程度だろう*2

自然との共生を説く梅原氏に対して、東氏は、今回の災害は少なくとも自然災害ではあるので、自然との共生を主張するには怒れる自然をどうするのか、といった趣旨の質問をしている。これは重要な質問のはずだが、梅原氏によれば、神道の基礎にあるのは自然への畏怖なのだから、捧げ物を用意することで、恵みの自然へと変えていく必要があった、と…。なるほど、コントロールするという点は同じなのか。ということは、私たちには、文明によって自然をコントロールするという選択肢と、捧げ物によってコントロールするという選択肢があるはずだが、どちらに信頼を置きたいだろうか。

唯一共感できたのは、思想とは「一粒の麦もし死なずば」という考えだった*3。ところで、よく知らないのだけど、思想を農業に喩えるのは、割とあることなのでしょうか。この言葉は『ヨハネ福音書』がオリジナルだそうだけど、こういうのもある。

思想にも、耕す時期と刈り入れの時期とがある。…種をまく文章があれば、刈り入れをする文章もある*4

*1:http://pid.nhk.or.jp/pid04/ProgramIntro/Show.do?pkey=001-20120325-31-24866&pf=f

*2:https://twitter.com/#!/tutiya/status/110896038981812225

*3:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%80%E7%B2%92%E3%81%AE%E9%BA%A6%E3%82%82%E3%81%97%E6%AD%BB%E3%81%AA%E3%81%9A%E3%81%B0

*4:ウィトゲンシュタイン『反哲学的断章』