Skinerrian's blog

論理学・哲学・科学史・社会学などに興味があるので、その方面のことを書きます。更新は不定期。

記述理論

確定記述と不確定記述の区別は、英語のように定冠詞と不定冠詞をもつ言語なら簡単につけることができるが、日本語だと難しい。この意味で、ラッセルの記述理論(theory of descriptions)は英語の文法に影響されていると言われる。しかし、さいきん飯田隆言語哲学大全1』を読み返していて、もう少し細かいところでも英語の文法に影響された理論なのだなということに改めて気付いた。

言語哲学大全1 論理と言語

言語哲学大全1 論理と言語

"I met a man."という不確定記述を含む文に関して、『数学の原理』(1903)は"a man"が[表示]概念を表すものと考えた。しかし、概念と出会ったわけではないだろう。そういうわけで、「表示について」(1905)のラッセルは、この文を

  • ∃x[I met x & x is human]

と分析した。ポイントは、2つ目の連言肢を"x is a man"と書いてしまうと、表示句"a man"を消去できないということ。なので、"a man"ではなく形容詞"human"を使わないといけない、というわけである。

確定記述を使った例文にはこういうものがある。

  • The father of Charles II was executed.

ラッセルによれば、これの適切な分析は

  • ∃x[x begat Charles II & ∀y(y begat Charles II → y=x) & x was executed]

である。"begat"というのは「[父親が]子をもうける」という意味の動詞"beget"の過去形である。「父親が」という意味が含まれているのが、ここでのポイントである。単に親であるだけなら、親は二人いるので唯一性がでてこない。また、言いかえをせずに"x is a father of Charles II"と書いてしまうと、表示句"a father"が出現してしまい、表示句を消去したことにならない。

Postscript(2013/2/25)

「"x is a man"と書いてしまうと、表示句"a man"を消去できない」というの点は、普通は特に問題にされない。"a man"は"x is a man"の構成要素ではないと考えればいい。その意味では、"x is-a-man"とハイフン付きで表記するのがよいのかもしれない。ラッセルのようにわざわざ"is human"とするのはスタイリッシュを求めてるだけ、と言えなくもない。

あと、"x is a man"については一階論理で問題なく扱えるが、"are men"のように複数形の述語になると、色々と問題が生じてくるようだ。例えば、変数の値は対象であって対象たちではないから、"x are men"とは言えないし…。特殊な変数を用意すべきなのかもしれない。